【コラム】民法改正

2015-05-19

民法改正について

 

 第189回通常国会に民法(債権法)の改正案が上程され,審議しているようです。

 まだ決議されたわけではありませんが,実現すれば,民法の大改正となり,実務においても従来の民法の知識では対応できないため,改正の内容については弁護士の間でも重要な関心事となっています。

 文献やニュースを通じて伝わってくる限りですが,特に重要な変更について,述べていきたいと思います。

① 錯誤無効

 司法試験を始めれば,まず最初に学ぶであろう錯誤無効。

 錯誤の定義や要件については理論的にも議論のあったところですが,所謂動機の錯誤を明文で錯誤に加えた点が重要です。 

 意思表示は動機から始まり,効果意思,表示意思,表示行為というプロセスをたどりますが,動機は意思を形成する前提に過ぎず,意思表示の本質的要素ではないとされていることから要素の錯誤ではないと考えられてきました。

 ただ,動機が意思表示の内容となっており,相手方が認識しうる場合には錯誤無効の主張を認める判例が確立していましたが,その判例を明文化するようです。しかも,錯誤は無効ではなく,取消事由という位置づけですので,詐欺の場合と同じになります。

 錯誤が無効ではなく取消事由にとどまることになると,錯誤と詐欺の関係や錯誤と瑕疵担保責任の関係なども整理する必要がありますね。

 また,表意者本人に重過失があった場合には錯誤取消はできないだけでなく,相手方が表意者の錯誤を知っていた時や重過失があった場合には,錯誤取消はできるようになります。

 従来から,錯誤無効は認められてしかるべきとされていた共通錯誤も条文で明らかにされ,錯誤取消の対象となるようです。

② 債務不履行に基づく解除

 債務不履行に基づく解除の要件は,債務の不履行,帰責事由,相当な期間を定めた催告が代表的な要件事実でしたが,帰責事由は不要となります。

 現実には,債務不履行があるのに,帰責事由がないということはほとんどないので,実体として変化はありません(帰責事由はその不存在を債務者側が主張立証しなくてはならないですが,まず認められず,せいぜい,債権者側の過失相殺につながる程度)。

 もっとも,債権者側に帰責事由があれば,債権者は解除できないことが明示されるそうです。 また,明文で一定の要件のもと,無催告解除も認められることになりました。

 無催告解除は,契約書の特約などでよく定められていますが,法律で無催告解除の要件が詳細に定められるとなると,それ以外の場合に特約で無催告解除の条項を認めるかは難しくなるのではないかと考えられます。

③ 時効

 時効については,ずいぶん前から短期消滅時効(民法170条から174条)の廃止は言われてきましたが,主観的起算点が導入されます。

 現行法上,通常時効の起算点は権利を行使することができるときから進行し,期間は10年ですが,それに加え,権利者が権利行使することができることを知った時から5年で時効により消滅します。

 例えば,100万円貸して,弁済期を1年後としたら,当然貸し手側は弁済期を知っていますので,今まで弁済期から10年間は時効消滅しなかった権利が,半分の期間で消滅することになります。

 契約上の債権の場合,権利者はいつから権利行使できるかを知っていますから,ほとんど5年間で時効になりますので,商人も非商人も変わらなくなりますね。そこで,商事消滅時効(商法522条)も改廃も検討されています。

④ 相殺

 相殺については,やり返し防止の観点から,不法行為に基づく損害賠償請求権を受働債権として相殺することは判例上否定されてきました。

 例えば,お金を貸してから,返さない腹いせに暴行をし,被害者から損害賠償請求をされても,治療費や慰謝料などは貸金と相殺することは認められないとされてきました(薬代は現金で)。

 しかし,相殺禁止の対象となる受働債権は,悪意による不法行為に基づく債権だけに限定することになりました。これにより,よく問題になる交通事故による相互損害賠償の相殺は適法になり,あえて合意による相殺を求めたり,迂遠なお金のやり取りをする必要はなくなりました。

⑤ その他

 瑕疵担保責任も,判例,通説(?)的立場だった法定責任説の理解を放棄し,契約責任(債務不履行の特則)という位置づけのもと,抜本的な改正がされています。

 保証の厳格化(書面ではなく公正証書により作成することが例外を除き義務付けられる)も実務に大きな影響を与えます。

 債権者代位や債権者取消権については,債務者の管理処分権は存続し(この点は従来の判例に反します),債権者代位訴訟,取消訴訟では,債務者に対する訴訟告知が義務付けられます。

 他にも気になった改正は多々ありますけど,従来の民法の争点に決着をつける形の改正や判例を明文で確認するなどの改正が多く,既存の知識を踏まえて対応できると思われます。会社法の大改正の方が驚きました。

 ただ,現在司法試験受験中の学生さんは,結構大変かも。民法は配点高いですからね。

 

                     アトラス総合法律事務所 弁護士 清水 祐

 

 

 

 

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