アトラス総合法律事務所の三浦翔と申します。
今日は「自己破産と自由財産」について、書いていきます。まず始めに自己破産とはどのような制度なのでしょうか。破産法には次のような条文があります。「免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。(破産法153条、一部抜粋)」
免責許可の決定とは「裁判所の判断で「破産が確定した時」、破産債権は「「ここでは一般的な借金」」だと思ってください。つまり自己破産は、破産が確定した場合に借金を免れることができる法律上の制度になります。
この制度は債務者にとって、非常に救済的で活用的な制度です。しかし自己破産に対し、ネガティブな印象を抱いている方も多いと思います。実際に「持っている家や家具、自動車など生活に必要なものが取上げられると困る」「家族の財産も差し押さえられてしまうのではないか」「給料も取り上げられたら、手続期間の生活がままならない」など、財産の差し押さえに関する不安をよく聞きます。
実際には自己破産により、全ての財産を失うことになるのでしょうか。
破産手続において債務者の財産は、債権者への配当のために換価処分される財産と、換価処分されない財産に分かれます。法律上では前者を「破産財団」、後者を「自由財産」と呼びます。自由財産は、換価処分の対象にならないため、手元に残すことができ、破産後の生活に充てることが可能になっています。
では、どのような財産が自由財産になるのか。簡潔に言えば、破産財団以外の財産が自由財産になりますが、いくつか例を挙げてみたいと思います。
財産でないもの
破産手続では、金銭価値を基準に配当手続が行われますので、人格権(肖像権、プライバシー権)や身分上の権利(夫婦、親子関係)など、財産価値として評価できない財産は、破産財団に含まれず自由財産となります。
破産者に属さない財産
破産者が所持している財産であっても、他人の財産であれば自由財産とされます。他人の財産で自己の債務の配当に充てることは、防ぐ必要があるため、破産財団に含むことはできません。従って破産者の家族の財産が、破産財団として換価処分される心配はないと考えられます。
破産手続開始決定後に取得した財産
自己破産申立を行うと、裁判所より破産手続開始決定が通知されます。これは公的に破産手続が開始されたことを意味し、自由財産を判断する上で、重要な基準となります。
「破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産は、破産財団とする。(破産法34条1項)」
この条文から、破産手続開始決定時点に所有している財産は、破産財団として扱うと定められています。言い換えれば、破産開始決定日以降に有した財産は、自由財産として扱われることになります。例えば、破産開始決定日以降に取得した給与などが含まれ、これらを別名「新得財産」とも呼びます。
差押えを禁止された財産
破産手続は債務者の財産の換価を行うため、強制執行の性質も有しています。そもそも法律では、債務者の最低限度の生活を保証するために、強制執行が禁止されている財産があります。これらは破産手続においても、同様に適用されるため、破産財団に含めることはできず(破産法34条3項)、自由財産となります。具体的には、債務者の家具衣服や1ヶ月の生活に必要な食料などの「差押え禁止動産(民事執行法131条)」「99万円以下の現金(民事執行法131条、破産法34条2項)」「一定額を超える給与・賞与・退職金等の債権(民事執行法151条)」などが含まれます。
自由財産拡張を認められた財産
自由財産の範囲は、前述した1〜4が原則ですが、例外として「自由財産拡張手続」により、自由財産の範囲の拡張が可能です(破産法34条4項)。拡張が認められるか否かは、裁判所の裁量によりますが、主に破産者の生活状況等を考慮して判断されます。
例えば、破産者所有の自動車について拡張手続が行われた場合、破産者が自動車を使用する職業に就いており、今後収入を得るために必要不可欠であると判断されれば、拡張が認められ、本来は自由財産に含まれない自動車を自由財産として扱うことができます。
勿論、裁判所の判断によっては、拡張が認められない財産もありますが、この制度により破産者の個別具体的な生活事情に合わせた財産を残すことが可能になっています。多くの裁判所では、生命保険解約金、退職債権、自動車、電話加入権などの財産に対し、拡張を認めるケースがあります。
このように自己破産は、債務問題を解消するだけでなく、今後生きていくための必要最低限な財産は保有したまま手続を終えることができます。経済的更正を図るための充分な機会となりますので、借金問題に悩んでいる方は、自己破産を利用しても良いかもしれません。
その際は、一度弁護士へのご相談をお勧めいたします。
以上となります。
最後までご一読いただき、誠にありがとうございます。