少子高齢化が加速し未婚率も高い日本において、従来は相続人になりにくかった兄弟姉妹の方が相続人となるケースが増加しています。亡くなった兄弟姉妹に配偶者や子もいない場合には、たとえ疎遠になっていたとしても法定相続人として対処する必要があります。
一方で、兄弟姉妹の方が相続人になったとしても、法律上「遺留分」の請求は認められていません。配偶者や子、直系尊属までしか「遺留分権利者」にはなれないのです。(民法1042条1項)
では、どうして兄弟姉妹は相続人になることはできても、遺留分の請求はできないのでしょうか。今回は兄弟姉妹に遺留分がない理由と、遺産をもらいたい場合に考えられる方法について、わかりやすく解説します。
兄弟に遺留分が認められない理由
兄弟姉妹は相続人になることはできますが、遺留分の請求は認められていません(1042条1項)。遺留分とは法定相続分とは異なり、必要最低限度もらえる相続財産のことです。相続人に該当する配偶者や子、直系尊属(両親や祖父母)は遺留分が認められています。遺留分には以下2つの特徴があります。
1.遺言書では相続財産をもらえないことになった方も、遺留分の権利者であれば必ず遺留分をもらえる
2.遺留分は放棄することもできる
では、どうして兄弟姉妹は遺留分をもらうことができないのでしょうか。その理由は以下の3つです。
相続関係では最も縁遠いため
相続が発生すると、配偶者は必ず相続人となり、第1順位に子、第2順位に直系尊属、そして第3順位にようやく兄弟姉妹が該当します(887条1項、889条1項)。
つまり、相続人になる方の中では、兄弟姉妹が最も縁遠いのです。配偶者や子は同居していることが多く、生計も共にしている方が多いでしょう。被相続人の財産を承継しなければ、生活が急に立ち行かなくなる可能性があります。
しかし、兄弟姉妹は子ども時代こそ一緒に暮らしているものの、大人になると別居しそれぞれが自立していることが多く、相続人として最後の相続順位に位置付けられています。この「縁遠さ」が遺留分の権利者ではない理由と考えられます。
代襲によっては面識のない方が遺留分を請求してしまうため
相続には「代襲相続」と呼ばれる仕組みがあります(887条2項)。代襲相続とは、相続人として本来相続すべき方が亡くなっている場合や、相続欠格がある場合などに、その方の子どもが相続人になることを指します。代襲相続は以下のようなケースで発生します。
・亡くなっている相続人の直系卑属
・亡くなっている相続人の兄弟姉妹の子
兄弟姉妹のさらに子まで遺留分を主張するとなると、その他の相続人は交流も面識もない遠い親戚から請求を受けてしまうことになります。そのため兄弟姉妹には代襲相続は認めるものの、遺留分は認めていないと考えられます。代襲相続は後程詳しく解説します。
生活基盤の違い
被相続人から見た兄弟姉妹は成人以降に生計を共にしていないことが一般的です。結婚や就職などにより、顔を合わせる機会も少なく、疎遠になっている方も多いと考えられます。
相続は被相続人の死去によって生活にダメージを受けそうな方から優先的に財産をもらえるように配慮がなされています。そのため、生計を共にしている可能性が低い兄弟姉妹は、相続人には該当しても、生活保障の意味もある遺留分の権利はないと考えられています。
兄弟でも遺産を貰える?その方法とは
兄弟姉妹は相続人になることはできても、遺留分は主張できないことがわかりました。しかし、未婚率も高い現在の日本において、兄弟姉妹が生前に被相続人を扶養し生活を長年支えていたことも十分に考えられます。しかし、被相続人が遺言書で別の方に相続や遺贈する旨を残してしまったら、兄弟姉妹は遺産相続どころか遺留分を主張することもできません。
そこで、遺留分ではないものの、兄弟姉妹が遺産を求める方法を2つ紹介します。
寄与分の請求をおこなう
「寄与分」とはひと言でまとめると「貢献度」を意味します。生前に、被相続人の財産の管理や運用を助けたり、介護によって生活全般を支えていたりと貢献していた方は、別居して生計を共にしていなかった相続人と比べると、被相続人の生活のために多く貢献したと主張できます(904条の2)。
貢献した分、多くの財産を相続させてほしいと請求することができるのです。介護施設への入居費の負担等も認められる可能性があります。
兄弟姉妹の立場であっても事業を無償で手伝ったり、病床に伏せた状態を長年支えていたりするなど貢献したのであれば、相続時に「寄与分」を主張することが可能です。
遺言無効の主張をおこなう
本来は相続人に該当するはずが遺言書では財産がもらえないことになっている場合、「遺言書無効」を主張することも手段の1つです。遺言書無効の主張は、以下のようなケースでよく行われています。
・誰かが被相続人の生前に、無理やり遺言書を書かせたと思われる場合
・偽造や捏造が疑われる場合
・メモ書きなど、遺言書とは思えない書式の場合
なお、遺言書の無効を主張する場合には調停前置主義の考えからまずは家庭裁判所へ調停を起こし、結論が出ない場合には「遺言無効確認請求訴訟」を提起することができます。上記2つの方法はいずれもお一人で対処をすることは難しいケースのため、弁護士への相談がおすすめです。
遺言向こうの主張をする際によくあるトラブル
被相続人が生前に思いを込めて作った遺言書ですが、兄弟姉妹の方からすると、悩みの種になってしまうケースも存在しています。終活という言葉が定着し、相続に関心を持つ方が増えている今、良かれと思って残した遺言書がトラブルになることも多いのです。
では、遺言書無効の主張に至ってしまうほど、厄介な遺言書とは一体どのようなものでしょうか。
■ 内縁の妻や養子縁組していない連れ子への遺贈
民法上は法定相続人ではない内縁の妻や、養子縁組をしていない内縁の方の連れ子であっても、遺言書上では遺贈の形で財産を継承することができます。このようなケースは法律上の妻や実子は遺留分を主張できますが、兄弟姉妹は遺留分を主張できません。
■ 学校やボランティア団体などへの遺贈
家族間の相続トラブルを見据えて、あえて学校やボランティア団体へ遺贈をする意向を残してある遺言書もあります。全額を寄付するような内容であっても、遺留分の権利がある方は寄付を受ける団体に対して遺留分を請求できます。しかし、このケースでも兄弟姉妹は遺留分を請求できません。
以上のように、内縁の方やその家族への遺言書、トラブル回避のつもりで書いた寄付が大きなトラブルになる場合があります。いずれのケースも兄弟姉妹の方は遺留分請求ができません。
兄弟が相続人になるケースと相続割合
遺留分の主張自体は兄弟姉妹の方はできないですが、冒頭にも触れたように兄弟姉妹は法定相続人としては「第3順位」に該当します。遺留分が無いから、と言って相続人にならないわけではありません。では、どのようなケースで兄弟姉妹は相続人となるでしょうか。またもらえる相続財産の割合とはどのぐらいなのでしょうか。
■ 配偶者のみがおり、子や直系尊属が死去している場合
近年は晩婚化や少子化により、配偶者がいても子どもがいない方も多くいます。直系尊属である親や祖父
母もいない場合、配偶者と兄弟姉妹が相続人になります。配偶者は4分の3の割合で相続し、残りの4 分の1を兄弟姉妹で相続します。
■ 兄弟姉妹のみ
被相続人が未婚のまま死去し、配偶者や子もおらず、父母・祖父母もいない場合には全額を兄弟姉妹が承継します。兄弟姉妹以外の相続人が相続放棄をした場合にも同様です。
兄弟の子が相続人になるケース
文中で「代襲相続」について触れましたが、兄弟姉妹の「子ども」が相続をするケースもあります。このような代襲相続はどのようなケースで発生するのでしょうか。
代襲相続は第3順位の兄弟姉妹が相続人となるケースで、該当した兄弟姉妹が死亡している場合に発生 します。兄弟の子が代わりに相続人となるのです。この子が死去している場合には再代襲相続は発生しません。あくまでも代襲相続人となるのは被相続人の甥・姪までです。
もしも相続人全員が死去している、あるいは相続放棄を行った場合には「相続人不存在」となります。浮いた状態の相続財産はさまざまな手続きを経て国庫に帰属します。
まとめ
兄弟姉妹は法定相続人としては第3順位に該当しますが、民法上遺留分の請求ができません。しかし、長年の介護で貢献をしたケースや、遺言書に明らかに問題がある場合などは、遺留分とは異なりますが相続財産を求めて主張をすることができます。
相続がトラブルに発展すると調停や訴訟が必要な場合があります。お一人で交渉や裁判所の手続きを行うことは大変な作業です。兄弟姉妹のお立場にある方で相続に悩んだら、まずは弁護士にご相談ください。