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コラム

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作成日:2023.12.04 最終更新日:2023.12.18

親や夫、妻の借金は相続人が支払わなければならない?

被相続人の借金支払い問題

借金は相続人が支払わなければならないのか?

ドラマや漫画などで、親が残した借金を子供が背負わされているような場面を見たことがあるかと思います。そのせいで、世の中には被相続人の借金は相続人がそのまま背負うものと勘違いしている人がいることがあります。

ですが、実際にはそのように直ちに被相続人の借金を返済する義務を負うことになるわけではありません。相続にあたって、適切な法的措置を取ることで借金の返済義務を負わなくて済みます。ただし、ちゃんとした知識がないと知らず知らずのうちに借金を背負うことになる危険があります。そこで、今回は被相続人に借金があることが分かった場合に取るべき法的措置についてお話します。

取りうる手段

まず、相続の際に相続人は相続放棄、限定承認、単純承認という3つの方法を選ぶことができます。ですが、それぞれがどういう相続の方法であるか分かっていないと、自分がどの相続方法を選ぶべきか判断できません。そこで、それぞれの相続方法がどういうものか、どういった場合にその相続方法を選ぶべきかを解説していきます。

相続放棄

相続放棄(民法939条)とは、被相続人の有する財産のすべてを相続しないという方法です。そして、ここにいう財産には、預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、ローンや借金といったマイナスの財産も含まれます。そのため、相続放棄の方法を採れば被相続人のプラス財産を相続できなくはなりますが、借金の相続を確実に回避することができます。

この相続放棄の方法を採るべきケースは、被相続人について借金などのマイナス財産があり、これがプラス財産を超えてしまっている場合です。マイナス財産の方が多いことが分かった場合には、まずは相続放棄を検討することをお勧めします。

限定承認

限定承認(民法922条)とは、プラスの財産の範囲内でのみマイナス財産も相続するという方法です。

例えば、被相続人の貯金(プラス財産)が300万円で、借金(マイナス財産)が500万円だったとします。この場合に限定承認の方法を採ると、プラス財産300万円を相続するとともに、マイナス財産を500万円のうち300万円の限度でのみ相続することになり、残りの借金200万円は相続しないこととなります。

この限定承認の方法を採るべきケースはいくつかあります。 

ケース1

その一つはプラス財産とマイナス財産がそれぞれどのくらいあるのかが把握できていない場合です。相続にあたっては、相続財産の範囲やその金額を把握しないとプラスの財産とマイナスの財産のいずれが多いのかを確定することはできません。ですが、相続財産には預金、不動産、株式、貴金属やローンなど複数のものがあるところ、相続人であっても知らない財産が有ることもあり、相続財産全てを洗い出すことがそもそも大変です。また、不動産の価格や預金額が具体的にいくらなのかを調査するのにも手間がかかります。

そして、注意しなければならないのは、限定承認と上記の相続放棄は、相続が開始したことを知ってから3か月以内に行わなければならないということです。相続が開始したことを知った時とは、基本的には被相続人の死亡を知った時となります。そのため、相続が開始したらできるだけ早くこれらの調査を始める必要がありますが、一個人がすべてを確実に把握することは困難です。

そこで、このような相続財産のすべてを把握しきれていない場合に限定承認を使えば、プラス財産が多い場合にはプラス財産からマイナス財産分を控除した差額につき得られます。他方で、万が一マイナス財産が多かった場合には、プラス財産の範囲を超えたマイナス財産については負担する必要はなくなります。このように、限定承認であればどちらに転んでも損をすることはないです。

ケース2

ほかにも限定承認を採るべきケースは、相続財産のうちマイナス財産の方が多いことが分かったが、被相続人名義である家に住んでおり、相続放棄をしてしまうと住む家を失ってしまうような場合です。

このような場合、基本的には限定承認であってもマイナス財産の方が多いため、プラス財産である住んでいる家も失うことになります。ですが、相続人自身が住んでいる家の価格分のお金を代わりに用意して支払うことで、住んでいる家を失わずに済みます。

例を挙げて説明すると、被相続人の借金が1000万円であり、住んでいる家の価格が800万円だったとします。この場合、限定承認をしたうえで家の価格800万円を相続人自身が用意して支払えば、いま住んでいる家に今後も住み続けることができます。また、プラス財産である家の価格800万円を超えた200万円分の借金については、限定承認の効果で返済義務を負うことはなくなります。

単純承認

単純承認(民法920条)とは、プラス財産、マイナス財産にかかわらず、相続財産の一切をそっくりそのまま相続する方法です。単純承認をすべき場合とは、プラス財産がマイナス財産を上回っていることが分かっている場合です。

そして、単純承認については上記の相続放棄・限定承認とは違い、何らの手続きをとらなくても3か月を過ぎることで単純承認の効果が生じます。

また、相続財産を費消してしまうなどの法定単純承認事由に該当する行為によっても、法律上単純承認をしたとみなされ、単純承認の効果が生じます。相続放棄や限定承認をしたいと考えている人は、法定単純承認事由該当しないように注意する必要があります。

以上、3つの方法について解説しました。このように見ると、借金があることが分かった場合には限定承認の方法を採るのが最もメリットの多い方法であるようにも見えます。しかし、限定承認にはいくつかデメリットもあります。

まず、限定承認は一人で手続きができる相続放棄とは異なり、他の相続人全員の合意が必要となります。そのため、相続人のうち一人でも限定承認に納得しない人がいる場合には限定承認をすることはできません。また、ここで合意ができないことで相続人間で言い争いになるなど、余計な紛争が生じる可能性もあります。

次に、限定承認は借金も相続することになるため、借金分については清算をする必要があります。この清算にあたっては、「公告」という債権者に請求をするように呼び掛ける手続きや、借金分を支払うためのプラス財産の売却手続きなどをする必要があり、手続きが煩雑になります。

このようなデメリットもあることから、限定承認はあまりとられていません。実際に、令和4年の司法統計によると、相続放棄の申立てが約26,000件なのに対して、限定承認の申立ては約700件しかされていません。

したがって、借金があることが分かった場合には財産調査をして、借金が上回る可能性がある場合には相続放棄をすることをお勧めします。

参照:令和4年司法統計

相続放棄の手続き

上述の通り、借金があることが分かった場合には相続放棄をしてしまうのが最も簡便な方法です。そのため、今回は相続放棄のやり方、手続きについても簡単に解説していこうと思います。

相続放棄申述の提出

相続放棄にあたっては、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に相続放棄申述書を提出する必要があります(民法938条)。また、その際には被相続人の除籍謄本や自身の戸籍謄本が併せて必要になるため、当該裁判所に問い合わせて必要書類の確認をしておきましょう。

相続放棄の照会書(書面又は電話による)

相続放棄申述書を提出し終わると、裁判所から書面又は電話で相続放棄の照会がされます。これは、法定単純承認事由に該当せず相続放棄をできる要件を満たしているか、誰かに脅されたのではなく自分の意思で相続放棄をしようとしているのか等を裁判所が確認するためになされるものです。

ここでは、基本的には自身の認識通りの事実をありのままに回答することになります。

相続放棄申述受理通知書の受領

上記の手続きを終え、相続放棄申述が裁判所によって受理されると、相続放棄申述受理証明書が届きます。これを取得すれば、被相続人の借金について債権者から支払いを求められたとしても、これを提示することで相続をしていないことを証明でき、支払いを免れることができます。

ちなみに、相続放棄は相続が開始する前、すなわち被相続人の生前にすることはできません。また、相続人間で「私は相続放棄をします」と伝えていたとしても、裁判所で相続放棄の手続きをしなければ相続放棄の効果は生じません。

そのため、上記の手続きをしっかりと行わなければ法的にはあなたは単純承認をしたことになり、債権者から後々借金の支払いを求められた場合に何も言い返すことができず、借金を負う羽目になってしまいます。

自分でもできるのか

以上、相続放棄の手続きについて解説しましたが、特に気になるのは相続放棄が自分自身でもできるのか、ということだと思います。

結論から申し上げると、相続放棄申述は弁護士などに頼まずとも自分自身でできます。もっとも、確実に相続放棄をしたいと思っている人は弁護士に依頼するのがよいでしょう。なぜなら、相続放棄にあたっては除籍謄本等の必要書類を集める必要があるところ、被相続人の住所が自分の住んでいるところから離れているような場合には収集に手間も時間もかかりますし、必要な書類を確実にすべて自力で集めきれるかは怪しいです。そして、この手続きは相続開始を知ってから3ヶ月以内にする必要があるため、収集に手間取ってしまうと相続放棄そのものができなくなる恐れもあります。

他にも、裁判所からの相続放棄の照会にあたって不適切な回答をしてしまい、相続放棄ができなくなるという危険もあります。上述した通り、相続放棄の照会は基本的に自身の認識通りの回答をすればよいです。ですが、裁判所からの質問の意味を正しく理解できていなかったり、相続放棄ができなくなる条件(法定単純承認事由)に該当しないようにするために、変に自身の認識と異なる回答をしてしまったりして、相続放棄に失敗してしまうこともあり得ます。

その点、弁護士は必要書類が何かをしっかりと把握して資料の収集を行えますし、裁判所からの質問の意図も正しく理解できるので相続放棄の手続きをするうえで失敗することはありません。

このような点から、自分一人で相続放棄がちゃんとできるか不安な方は、弁護士などの専門家に依頼することをお勧めします。

相続放棄をしたのに借金を免れられない場合

相続放棄をした場合、相続放棄をした人は被相続人の負っていた借金など一切の債務の負担を免れることができることは既に説明した通りです。そうすると、債権者は相続放棄をした人以外の相続人や、次の順位の相続人に対して債務の請求をしていくことになります。

ですが、適切に相続放棄手続きを完了したにもかかわらず、借金を免れられないケースがあります。それは次の場合です。

連帯保証人になっている場合

相続放棄をした相続人が連帯保証人や連帯債務者になっていた場合、借金を免れることはできません。確かに、相続放棄をすれば被相続人の地位に基づく借金を免れることはできます。しかし、自身の連帯保証人や連帯債務者としての地位に基づく借金は被相続人の地位とは異なる自己独自のものであるため、相続放棄により免れることはできません。

事例

例えば、父AがXから1000万円の借金をしていたとします。そして、同時にその子BがXと、父Aの借金1000万円につき連帯保証契約を結んでいました。そして、借金を返済できないまま父Aが死亡し、子Bは、父Aの遺産全てにつき相続放棄をしました。

この場合、子Bは父Aの債務者としての地位を相続放棄により免れることになります。ですが、子B自身の連帯保証人としての地位は相続放棄によりに影響は受けません。そのため、結局、連帯保証人としての地位に基づいてXから1000万円の請求を受け、その支払い義務を負うことになります。

このようなケースは、住宅ローンなどで見られます。家を建てる際、住宅ローンを組むにあたって、夫婦の一方が契約者となり、他方が連帯保証人となったところ、返済が終わらない間に契約者が亡くなってしまう場合です。

もっとも、団信(団体信用生命保険)に加入していれば、残債務は保険により支払うことができるため連帯保証人だとしても債務を負わなくて済みます。

まとめ

今回は、被相続人に借金がある場合に取るべき法的措置につきお話ししました。借金があることが分かった時点で自身の採るべき法的措置に向けて行動を始めないと、思いがけない借金を負う羽目になり、その後の人生に大きな影響を受ける恐れがあります。

相続が発生した場合には、直ちに相続財産の調査をし、自身の採るべき法的措置を決めましょう。その際、自分一人で手続きをするには不安が残る場合には、弁護士などの専門家に依頼しましょう。また、弁護士は相続財産の調査を行うこともできます。相続財産の調査を自分で行い、そのすべてを確実に把握することは容易なことではありませんし、上述のように相続放棄には期限もあります。そのため、相続財産調査に漏れがないか、手続きが自分自身でできるか心配な方は、やはり弁護士などに依頼することをお勧めします。

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