毎月、借金の返済について考えなければならないと、余裕がだんだんとなくなってしまうものです。その焦燥感、苦しみから逃れるため、自己破産を考えるという方もいるのではないでしょうか。そして、自己破産をしようと考えたときに、不安に思われるのは、やはり家族のことではないでしょうか。自分は借金をした張本人であるから仕方がないにしても、家族にまで不利益が及ぶのは避けたい、、
そんな方に向けて、基本的な知識を交えながら、自己破産した場合に考えられる家族への影響を弁護士が解説していきます。
自己破産が家族に与える5つの影響
1. 財産(家・車・貯金)への影響
自己破産する、と聞くと、財産をすべて失ってしまうかのような印象を受ける方もいるのではないでしょうか。しかし、実はそうとも言い切れないのです。
そもそも、自己破産とは、債権者に対して公平な配当をすることと、多額の借金を負ってしまい、弁済が困難となってしまった人の返済を免除することにより、生活の再建を助けることの双方を実現するための制度です(「経済生活の再生」(破産法1条))。
そのことからもわかるように、生活をするために必要な財産であると、裁判所から認められた分に関しては破産者の手元に残されます。自己破産したために、その日から使えるお金が一切無くなり、生活が立ち行かなくなってしまう、などというようなことはありません。
それでは、自己破産した場合に没収されてしまう財産にはどのようなものがあるのでしょうか。実際はそれぞれの事案に対する個別的な判断は裁判所がすることになりますので、一概には言い切れませんが、その財産の価値が20万円を超える財産か、は一つの目安と言っていいでしょう。
以下で、自己破産した場合の財産の扱いについて種類ごとに詳しく見ていきましょう。
持ち家やマンションは処分される可能性がある
まずは、不動産についてです。不動産は、20万円を超えるものがほとんどかと思われます。
そのため、持ち家の場合、差押処分を受けることになります。その場合、その家に住み続けることは基本的には極めて難しいといっていいでしょう。今まで住んでいた場所を明け渡して、他の場所への引っ越しを余儀なくされることにより、これまでとは生活が大きく変わってしまうことも考えられます。
一方で、賃貸住宅で生活をしていた場合には、自己破産をしたことを理由に、必ずしも引っ越しを余儀なくされてしまうわけではありません。
ただし、自己破産をする時点において、家賃を滞納していたような場合は少し違います。滞納している家賃も、その滞納分の家賃も免除される債務の中に含まれます。免除があるということは、債務者は滞納してきた家賃債務から解放される一方で、債権者にとっては払われるべき家賃が払われない状態になります。
これを、法律用語では「債務不履行」といいます。そして、債務不履行は解除の理由になり得ます。
では、貸主に対してのみ、支払いをしてはどうか、と思う方もいるのではないでしょうか。そうすれば、債務不履行になることは免れます。これで解除をされるようなことはなく、その後も今の家に住み続けられるかもしれない、そう思われるでしょうか。
しかし、この行為には、リスクがあるのです。免責不許可事由である、偏頗返済に当たってしまう可能性があります。
偏頗返済とは、借金の返済ができない状態になっているにもかかわらず、一部の債権者に対してのみ返済等をしてしまうことです。もし、偏頗返済をしてしまった場合には、免責許可を受けることができず、弁済をし続けなければいけなくなることもあります。
車(自動車)は手放すことになるケースが多い
自動車もまた、20万円を超える価値があると判断されるような場合には、差押処分の対象になります。 ただし、その自動車が20万円を下回る価値であると評価されたり、車が生活になくてはならない、必須なものであると認められたりした場合には、持ち続けることができます。
家族名義の財産や貯金は原則として守られる
妻や子ども、その他の家族の貯金、通帳、家族の預貯金やその他の財産は、通常影響を受けることはありません。
自己破産は、そもそも債権者と破産者本人の問題です。たとえ結婚していても、家族であっても、本人とは別の個人、他者です。家族の誰かが自己破産をしたからと言って、ほかの家族が自己の財産で返済をすることを求められる、差し押さえられたり、とられたりするようなことはありません。
例えば、夫だけが自己破産した場合に、妻や、娘息子、両親の財産が差し押さえられるようなことは基本ありませんし、妻だけが自己破産した場合であっても、それは同じことです。。
処分されない財産(自由財産)とは?
ここまで個々の財産についてみてきましたが、もう一度、財産全体についてまとめてみてみます。自由財産とは、簡単に言うと自己破産をしても失うことのない財産のことです。具体的には、以下の通りです。
・99万円以下の現金
・差押禁止財産
差押禁止財産とは、言葉の通り、差し押さえが禁止されている財産のことです。具体的には、生活に必要なもの、給料等の4分の3に相当する分、年金・生活保護の受給権などを指します。たとえば農業をやっているような場合には、農機具も含まれます。
・裁判所により自由財産として拡張を認められた財産
自己破産をしても失うことのない財産、自由財産は、拡張することができます。裁判所に対して申し立てをし、裁判所に認められれば、その分の財産も、もちろんご自身の手元に残ります。
・破産管財人が財団から放棄した財産
破産者の財産は、基本的にすべて、破産財団に属することになります。そして破産管財人という、破産財団の管理者が、管理・処分し、債権者へ分配をするのです。しかし、財産の処分ができなかったときなどには、その財産は放棄され、破産者の手元に戻ることになります。
2. 家族の信用情報やプライバシーへの影響
以下では、信用情報をはじめとしたプライバシーに関する面について家族への影響はどのようになるか。この点について確認していきます。
家族の信用情報に事故情報(ブラックリスト)が載ることはない
そもそも、信用情報とは何を指すのでしょうか。先に確認しておきます。
信用情報は、貸金契約をするとき、クレジットカードを作るときに、申込者の支払い能力を判断する為に使われる情報です。クレジットカードやローンの契約状況、支払い状況などが信用情報の中身になります。そして、事故情報とは、信用情報機関に登録される金融事故、つまり、長きに渡って支払いが遅れたとか、債務整理を過去に行ったとか、そういった情報を指します。
自己破産をすると、事故情報として、この人は自己破産をしました、という情報が信用情報機関に登録され、金融機関はその情報を参照できるようにしまうことになります。
その結果として、破産者は、さまざまな不利益を被ることになってしまいます。
しかし、財産について書いた部分でも触れましたが、自己破産は、債権者と、破産者本人との問題です。身内の者が自己破産をしたからと言って、破産者本人ではない以上、その家族の誰かの情報に傷がついてしまうようなことはありません。
本人のクレジットカードが使えなくなってしまったら、同時にそれに紐づく家族カードも使うことはできなくなります。しかし、家族が本人の名義で使うクレジットカード等に影響が及ぶことはありません。
戸籍や住民票に自己破産の記録は残らない
上記で触れた信用情報・自己情報は、あくまでも民間の機関である株式会社CICが保有し、クレジット会社などがクレジットカードやローンの契約にあたって参照するものです。行政機関とは関係がありません。
そのため、自己破産をした場合に、戸籍や住民票に何か記録が残されるようなことはありません。まして、そのような情報が取り寄せた文書に載るといったようなこともありません。
官報への掲載で周囲に知られる可能性は低い
住民票や戸籍に載ることはないとお書きしましたが、全く公にならないというわけではありません。国が発行している機関紙である、官報には記載がされます。
ただし、多くの人は官報に目を通す機会が多いとは言えませんし、あまり大きく取り上げられるわけではないので、周囲の方がその記載に気づく可能性は低いと言っていいでしょう。
3. 家族の仕事や結婚への影響
では、家族の仕事や結婚に対しての影響はないのか。例えば、家族の誰かが自己破産をしたことによって、他の家族が左遷されたり、内定を取り消しになったり、結婚が破談になってしまったりといったことがあるのかを見ていきます。
家族の就職・転職に法的なデメリットはない
法律には、自己破産した人の親族とは雇用契約を結んではならないという記載はありません。
また、自己破産した人が家族にいることを、志望先の会社や、内定先に申告することを義務付ける法律はありません。
ですから、実は勤め先の会社が債権者だった、とか、誰かに話してそれが広まってしまった、などという、他の事情によって会社側が破産を知るようなことがない限り、会社に情報が流れるようなことはありません。
ただ、何かの事情で自己破産の情報が伝わり、居心地の悪い思いをする、などの間接的な影響を否定することはできません。
子どもの結婚に直接的な影響はない
お子さんの結婚に対しても直接的な影響はないと考えてよいでしょう。
会社に対するのと同様に、お相手のご家族に対して、自己破産をしたことを伝えなければならないということはありませんし、また、先述のように住民票や戸籍等の公的な文書にも記載がない以上、お相手方が事情を知ることは多くはなさそうです。
しかし、いくら自己破産が制度として用意されており、それによって救われる方もいるとは言っても、あまりイメージが良いものではありません。家族が自己破産した、という事情を知ったお相手本人、もしくはその御両親が不安に思われることは十分に考えられることです。話がスムーズには進まないかもしれませんし、最悪の場合、破談になることも考えられます。
このように、直接的な影響はなくとも、間接的に障壁になることは十分に予想されます。
4. 子供の教育や進学への影響
ではお子さんの進学への影響はどうでしょうか。受験をするとき、もしくは入学手続きで、なにか不利益になるようなことはあるのでしょうか。
学校の入学や進学そのものに影響はない
学校の入学や進学には影響はあまりないといっていいでしょう。何度か触れているように、公的な文書への記載はありませんし、申告の義務もありません。そのため、自己破産の事実が直接的に影響することはないといってよいでしょう。
しかし、自己破産をすると自由に使える財産は少なくなります。そのため、特に私立の学校への進学等の場合には、学費や修学旅行費などが高額になるケースもあります。また、寮に入れない、一人暮らしができない、交通費をかけられない、という理由で遠くの学校に進学をするのをあきらめなければならなくなります。少なからず影響は出てくるといえるのではないでしょうか。その意味で、お子さんの選択肢を狭めてしまう、ということになるかとは思います。
教育ローンや奨学金の保証人にはなれない
学費については先にも少し触れましたが、学費をどこからか借りる、ということになると、より直接的な影響を受けることになります。
破産者はローンを組むことも、保証人になることも難しくなっています。それは、教育ローンの場合や、奨学金などにおいても同じことが言えます。奨学金などでのお金の調達ができなくなることにより、お子さんが行きたいと希望される学校にいけなくなってしまうことは予想されます。
5. 家族が保証人になっている場合の影響
では、破産者のご家族の方が、破産者の債務の保証人になっていた場合にはどのような影響があるでしょうか。以下で確認します。
保証人・連帯保証人には一括請求がいく
主債務者(債務者本人のことを法律ではこのように呼びます)が破産をした場合には、債権者は主債務者本人への取り立ては出来なくなってしまいますから、その債務の弁済の請求は保証人に一括請求されることになります。
つまり、これまでの説明では家族の財産は守られる、影響を受けることはないと書いていましたが、家族が保証人になっていた場合には、家族もまた、当事者であり、債権者に対して弁済の義務を負う立場になります。そのため、家族であっても、保証人となっている債務の範囲で自己破産の影響を大きく、かつ、直接的に受けることになります。
保証人も債務整理が必要になる可能性がある
保証人は主債務者が弁済をできなくなった場合には、保証人自身が弁済することになります。保証人もすべての債務に対しての弁済が難しいとなるのであれば、保証人にもまた、債務整理の必要が出てくることになります。
ご家族が保証人として弁済の義務を負う債務の額があまりに膨大になってしまう場合には、ご家族も連鎖的に破産となってしまう可能性もあります。
自己破産を家族に内緒にすることはできるのか?
上記で、家族への影響を見てきましたが、家族が保証人になっているような場合を除き、基本的には、債権者から見て、債務の履行を請求すべき相手はご自身の家族ではありませんから、直接的な影響を受けるケースは限られてきそうです。では、自己破産の事実を家族に秘密にしておくことはできるのでしょうか。
同居家族に隠し通すのは現実的に難しい
他の周囲の人々に対してと同じように、家族に対しても法律上、自己破産を明かさなければならない義務はありません。
しかし、手続きをしていく中で、気づくきっかけは多く散りばめられていますし、家族の協力を得なければならない場面もあります。そのため、現実的には隠し通すのは難しいでしょう。
その理由を以下で見ていきます。
自己破産をする場合には、債権者や裁判所からの郵便物がご自宅に届きます。また、手続の中で配偶者の収入証明を提出することが必要になります。値打ちがあると認められる不動産や動産は差押処分となり、競売にかけられるなどしますので、実際の生活に影響が出てくるタイミングがあるでしょう。クレジットカードが使えなくなりますので、不審に思われることもあるでしょう。
このように、日々の生活の中でご家族がご自身の破産手続きについて気付く可能性のあるタイミングは少なくありませんので、同居されているご家族に自己破産を気づかれないようにすることはあまり現実的とは言えません。
別居している親や兄弟には知られずに済む可能性もある
逆に、別居している親族には、あまり知られることはないかもしれません。郵便物はわかりえませんし、家や車、支払方法の変化はある程度話を取り繕うことができれば、隠すことも不可能ではありません。
このように、絶対に気づかれない、ということはできませんが、同居のご家族よりも自己破産をしたことに気づくきっかけは少ないといえるでしょう。
家族への影響を最小限に抑えるための他の選択肢
個人再生:自宅を残せる可能性がある
破産を検討している方に安定した収入がある場合には、個人再生という手段もとりえます。裁判所を通した手続きという点では自己破産と同様ですが、弁済を免除されるのではなく、減額であることに違いがあります。裁判所に対して、計画書を提出し申し立て、それを認めてもらうことで、借金を減額してもらうという方法です。この計画は、3年から5年で借金を返済するためのものです。この方法では、借入額を最大で1/5まで減少させられる可能性があります。
しかし、この方法では、ただ申し立てをするのではなく、自分できちんと計画を立てて、それを裁判所に認めてもらわなければなりません。そのため、少し難しい手続きといえるでしょう。信頼できる専門家に相談をして手続きをとることをお勧めいたします。
任意整理:保証人への影響を回避できる場合がある
任意整理とは、裁判所を通さずに、弁護士などの専門家に依頼して、債権者に直接交渉をしてもらって返済の負担を小さくする方法です。こちらも、知識や経験のない方がご自身で債権者を説得するのは極めて困難であるといえるでしょう。専門家に依頼をすることをお勧めいたします。
自己破産前に注意すべきこと|家族への影響を避けるために
財産隠しや偏頗弁済は絶対に行わない
申し立ての時に財産隠しや、上述した偏頗返済等を行ってしまった場合には、最悪の場合免責が認められなくなることも考えられます。ご自身の負担を軽くするための手続きですから、適切な手続きをとることが重要です。また、意図せず財産隠しや偏頗返済を疑われる行為をしてしまうこともありますので、免責が認められる可能性を高めるためにも、法律の専門家である弁護士に相談をしたほうが良いといえるでしょう。
自己破産直前の離婚は財産隠しと見なされるリスクがある
離婚をすると、財産分与などで、財産の動きがあります。その動きが、差押処分を免れるためにした財産隠しであると疑われるリスクがあります。上に書いたように財産隠しは免責が認められない原因になってしまうことも考えられます。
疑念を持たれかねないような行為はなるべく避ける、どうしても動きたいという場合には、弁護士に相談するなどの対策を取りましょう。
事前に家族に状況を説明し協力を得る
家族に自己破産を打ち明けることは、勇気のいることかもしれません。心配をかけてしまう、不安を感じさせてしまう、と考えてしまうかもしれません。しかし、手続きの中で、ご家族の協力が必要になることもあるかもしれないのです。ご家族にはきちんと説明し、理解・協力を得ておくことをお勧めします。
まとめ:家族への影響が心配なら、まずは弁護士に相談を
自己破産をする際、例えば、今まで住んできた家を手放さなければならなくなるケースなどでは、ご家族への一定の事実上の影響は避けられません。しかし、ここまで見てきたように、適切な手続きを踏めば、ご家族への直接的、法的な影響は最低限に抑えられるでしょう。
自己破産と聞くとマイナスのイメージを持たれる方も少なくありませんが、これまでの生活を一度整理し、新たなスタートをするための手続きでもあります。今後の生活をよりよいものにするためにも、自己破産の手続きはは、着実に行っていきたいものです。
少しでもご不安があるような場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
当事務所には、知識・経験ともに豊富な弁護士が在籍しています。これからの新しい人生に向け、サポートしてまいります。
