特別顧問の弁護士の林正彦です。私は約8年間公証人として仕事をした経験があります。公証人は「予防司法」を担っていると言われますが、その公証人の重要な仕事の一つに、遺言や各種契約等に関する公正証書の作成があります。
公正証書には3つのメリットがある
まず、予防司法の観点から見た公正証書の大きなメリットとして、次の3点を挙げることができます。
強力な証明力があること
1点目は、公正な第三者である公証人が、ご本人の同一性の確認を厳格に行った上で(3か月以内の印鑑登録証明書と実印、又は、運転免許証・マイナンバーカードなど顔写真付き公的身分証明書の呈示等によります。)、ご本人の判断能力とその意思内容をチェックし、公正証書の具体的な内容についても、各要件を備えているか、法的に問題がないかなどを厳格にチェックして、有効かつ適正な公正証書を作成しているということです。
このように作成された公文書である公正証書については、判断能力を備えたご本人がその意思に基づいて遺言や契約等の法律行為を行ったという強い推定が働きます。仮にこれが争われることになっても、相手方の方で虚偽であるとの反証に成功しない限り、この強い推定は破れませんので、後日の紛争予防に大きく役立つことになります。
長期間保管されること
2点目は、公正証書原本が公証役場で長期間保管されるということです。紛失・破棄・改ざん等を防止するためですが、長期保管に要するコストは基本的には公証役場側が負担しています。さらに、遺言公正証書については、紙ベースだけではなく電子データとしても保存する「二重保存システム」がとられています。震災・洪水等に対する備えも十分です。この原本保管の点も、後日の紛争予防に大きく役立つことになります。
なお、令和7年10月1日に公証人法が改正されて「公正証書のデジタル化」が始まり、同日以降作成の公正証書については、原則として電磁的記録で作成されることになりました。従来は紙で作られた公正証書に嘱託人等の列席者と公証人が署名押印したものが原本でしたが、今後はPDF形式の電磁的記録で作成され、嘱託人等の列席者がパソコンを用いて電子サインを付し、公証人が同じく電子サインと官職証明書による電子署名を付したものが原本となります。この電磁的記録で作成され公正証書原本も公証役場で保管されますが、具体的には日本公証人連合会が運営するシステムのそれぞれの公証人が管理する領域で保管されます。
執行力があること
3点目は、金銭債務についての公正証書は、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている場合には、執行力(債務不履行の場合、裁判所に訴えることなく直ちに強制執行をすることができる効力)を有することです(この執行力を有する公正証書を特に「執行証書」といいます。)。この点も、後日の裁判所での手続を要することなく、大切な権利の保全とその迅速な実現のために大きな役割を果たしているといえます。
さらに、前述の「公正証書のデジタル化」が実現したことにより、一定の要件のもとに公証役場に出頭をせずにウェブ会議・電子署名を利用して公正証書を作成することや、公正証書の正本・謄抄本の書面交付に代えて、これらの証明書を電子データで受領することが可能になりました。こうしたデジタル化により公正証書が一層利用しやすくなったものと考えられます。
公証人とは?公証制度とは?
ところで、「公証人」や「公証制度」について詳しくはご存知ない方もいらっしゃるでしょう。ここで、簡単にこれらの紹介をさせていただきます。
⑴ 公証人は、国家公務員法上の公務員ではありませんが、国の公務である公証作用を担う「実質的な公務員」です。
中立・公正な立場で国の公証事務を行い、国民のみなさんの権利保護と私的紛争の予防の実現を使命としています。裁判所が「事後救済」という役割を担っているのに対し、公証人は、事前に紛争を予防するという「予防司法」の役割を担っている点が特徴的です。
⑵ 公証人は、原則として、裁判官や検察官又は弁護士として法律実務に携わった者で、公募に応じたものの中から、法務大臣が任命しています。また、多年法務事務に携わり法曹有資格者に準ずる学識経験を有する者で公募に応じ、かつ、公証人特別任用等審査会の選考を経たものについても、法務大臣が公証人に任命しています。
⑶ 公証制度は、国によって異なり、大きく分けて、公正証書の作成はせず、私文書の認証及び宣誓認証のみを取り扱うアメリカ型の Notary Publicと、これらに加えて公正証書作成もその権限に含まれるドイツ、フランス、イタリア、スペイン等のラテン法系諸国のNotary があり、日本の公証制度は後者に属します。
⑷ 公証人は、国から給与等の金銭的給付を一切受けず、国が定めた手数料収入のみによって事務を運営しています。 「手数料制の公務員」ともいわれています。
⑸ 公証人は全国に約500名おり、公証人が執務する事務所である公証役場は、全国に約300か所あります。東京都内では公証人約110名、公証役場45か所です。
日本公証人連合会及び東京公証人会のホームページに、全国又は都内の公証役場の所在地、電話番号、FAX番号、メールアドレス等が記載された「公証役場一覧」が掲載されています。ワンクリックで各公証役場のホームページにアクセスすることができます。高齢のご本人の住所地に近い公証役場を探す際などにご利用いただけると思います。
⑹ 一般の方向けに、公証人の仕事を分かりやすく説明した広報ビデオが作成されています。日本公証人連合会のホームページのトップページに掲載された「公証人ってなんだろう?」「遺言は大切な人に残せる最後の贈り物」等の箇所をクリックすると、これをご覧いただくことができます。いずれもドラマ仕立てでわかりやすい内容になっています。YouTubeにもアップしています。「公証人ってどんな人で何をしている人なんだろう?」などと不安や疑問を抱いている方はぜひご視聴ください。
終わりに
当事務所では、「予防司法の実現」に大きく寄与したいとの思いから、遺言をはじめ、婚前契約、パートナーシップ(同性婚)契約、夫婦間の合意、離婚給付等契約、任意後見契約、死後事務委任契約、債務弁済契約、不動産の売買・賃貸借契約等の各種契約・合意に関する「公正証書作成」のお手伝いをさせていただいております。ぜひお気軽にご相談ください。
