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作成日:2025.12.16 最終更新日:2025.12.16

相続放棄のNG行為|遺品整理で気をつけるべき7つのポイント

相続放棄

家族がなくなってしまったときも、悲しみに浸り、故人の思い出を偲んでばかりでいるわけにもいきません。生前に故人が使っていたものについて整理していくことも必要になります。
遺品の整理だけではなく、故人が契約していた電気やガス、携帯電話等の契約についてもしかるべき手続きをとることになるでしょう。そのために書類や手紙を整理していく中で、支払いがすでになされているのかどうかわからない請求書を見つけた、、などということも考えられるように思います。まじめな方ほど、このような請求書を見つけて支払わなければ、、!と思ってしまうのではないでしょうか。

しかし、もしあなたが、相続放棄を考えている場合、善意で行ったはずの支払いという行為が相続放棄の妨げとなってしまう場合もあります。
今回は、上記のような、相続放棄の手続きの中で「やってはいけないこと」をテーマにお話をしていこうと思います。

はじめに|相続放棄を検討するなら「単純承認」に要注意

相続放棄をする際に一番気を付けなければならないのは、「単純承認」とみなされてしまうことでしょう。単純承認をしたと認められれば、相続放棄を行うことができなくなってしまいます。単純承認については次の章でも詳しく説明しますが、簡単に説明すれば、被相続人のプラスの財産も、マイナスの財産も、どちらも引き継ぐということを意味します。プラスの財産はともかくとして、マイナスの財産も全て引き継がなくてはならなくなってしまうため、注意が必要です。

では、まずはそもそも相続が発生した際に相続人がとり得る選択肢について簡単に説明したのち、相続放棄が認められなくなってしまう「法定単純承認」という制度について見ていきます。

相続の3つの選択肢とは?

民法882条には、「相続は、死亡によって開始する。」と規定されていますが、親族の死に直面した相続人に、全くの選択肢や猶予がないというわけではありません。
相続人は、発生した相続に対して、単純承認、限定承認、相続放棄の3つの選択肢から、自らの対応を選択することができます。ただし、限定承認と相続放棄は、「相続の開始があったことを知った時」から3か月の間に法定の手続きを行う必要がありますので(民法915条)、相続人は、3か月以内に、上記3つのうちどれにするかを選ばなければなりません。

なお、この3か月間のことを「熟慮期間」と言います。

ここで、3つの選択肢について詳しく説明していきます。

まず、単純承認(民法920条)についてです。相続人は、単純承認という選択肢をとると、被相続人の権利も義務もすべてを受け継ぐことになります。被相続人が負っていた義務をも引き継ぐことになりますので、相続後は、相続人が被相続人の債務の返済等を行うことになります。

このとき、被相続人から引き継いだ義務の引き当てになる財産には、被相続人から引き継いだ財産のみならず、相続人の財産も含まれます。つまり、被相続人の資産の状況によっては、相続によって自身の財産の持ち出しを行う必要があるということにもなります。

例えば、被相続人が2500万円の借金と、2000万円の資産を遺して亡くなった場合を考えてみましょう。単純承認の場合には借金2500万円と、資産2000万円の両方を受け継ぐことになります。そして、借金を返していくにあたっては、2000万円分については被相続人の資産を充てればよいことになりますが、残りの500万円については、相続人が自身の資産から返済をしていかなければならなくなります。

一般的に「相続」という場合には、この単純承認のことを指すことになるかと思います。

次に、限定承認(民法922条)です。限定承認とは、相続した被相続人の遺産の範囲内でのみ被相続人の義務を引き継ぐことです。つまり、単純承認の場合と異なり、相続人は、自身の財産を被相続人の債務の弁済のために充てる必要がなくなります。そのため、相続人にとってとても都合の良い選択肢となっています。

先ほどの事例について考えてみると、限定承認の場合には、借金2500万円のうち、資産の範囲である、2000万円のみについて承継することになります。
しかし、この選択肢をとるためには複雑な手続きを済ませる必要があり、実際に利用されるケースは少なくなっています。この点については、弊所のコラム、「土地や空き地など不動産を『相続放棄』するやり方と注意点を解説」でも、軽く触れていますので、よろしければご参照ください。

最後に、相続放棄(民法939条)についてです。相続放棄は、被相続人の財産について、それがプラスのものであると、マイナスのものであるとを問わず、すべての財産について承継を拒否するものです。その結果として、その相続については、初めからなかったものとみなされることになります(民法939条)。

先ほどの2500万円の借金と2000万円の資産を残された場合で考えると、相続放棄をした場合には、借金の2500万円も、資産の2000万円もどちらも引き継がないことになります。

被相続人が負っていた負債だけではなく、被相続人が保有していた資産も含めて、そのすべての承継を拒否するという選択肢になりますので、基本的に被相続人が負っていた債務の返済を行う必要はありませんが、被相続人の資産を相続人が利用・処分することも、原則として許されないということになります。

相続放棄ができなくなる「法定単純承認」とは

法定単純承認とは、相続人が単純承認の意思を表示したわけではないが、民法にある条件に当てはまる行為をした場合に、単純承認をしたとみなされるというものです。つまり、法定単純承認事由があると、相続人の意思に関係なく、相続放棄という選択肢を採れなくなってしまうのです。

法定単純承認としてみなされてしまうのは民法では以下の3つの場合が挙げられています。

第921条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

1つ目として挙げられているのは、相続財産について処分行為をしてしまった場合です。処分とは、財産の現状・性質を変更することをさします。これについては、この後の章で詳しく見ていきましょう。

2つ目に挙げられているのは、期間内に限定承認または相続放棄の申し立てをしなかった場合です。先に書いているように、相続への対応を決めるために設けられている期間は3ヶ月です。そして、相続放棄や限定承認は、ご自身が心の中で思っていたり、債務者や他の親族に対して相続放棄の意思を示したりしただけでは効力は有さず、裁判所に申し立て、認められてはじめて効力が生じます。この3ヶ月の熟慮期間の間に対応を決め、裁判所に対して申立てをしなければ、単純承認をしたとみなされてしまうのです。

3つ目は、簡単に言えば、相続放棄をしたのにもかかわらず、その後に被相続人の財産に手をつけてしまうことなどです。ただし、ある人が相続放棄をした場合には、その相続人の立場は次の順位の人に移ることになります。この点についても過去の弊所のコラム、「土地や空き地など不動産を『相続放棄』するやり方と注意点を解説」で解説していますのでよろしければ参考にしてください。もし、この次の相続人が相続の承認をした場合には、その後に被相続人の財産を消費したり、隠したりしてしまったとしても、そのことが法定単純承認事由となってし
まうことはありません。

なお、3号の中で「目録」、という言葉が出てきますが、これは限定承認の場合にのみ作成するもので、相続放棄の場合に目録の作成はありませんので、これについては相続放棄では考えられません。

限定承認や相続放棄をする場合には、法定単純承認の事由に該当することがないよう、上記のような行為は避けなければなりません。

相続放棄のNG行為!単純承認とみなされる7つのケース

法定単純承認に該当する行動を避けるとはいっても、具体的にどのような行為が”NG行為”に当たってしまうのか、線引きは非常に難しいものです。そこで、以下では、具体的に7つのケースで、詳しく見ていくことにします。

ケース1:相続財産を処分・消費する

先ほど、1として挙げた相続財産の処分について見ていきます。
まずは、条文上の「処分」の意味を確認しておきましょう。
921条の「処分」とは、財産の現状・性質を変更することを指します。そしてそれは、売ったり、名義を変更したりといった法律的なものだけでなく、壊したり、使ってしまったりという事実的なものをも含むと考えられています。

処分が法定単純承認事由とされている理由は主に二つあります。
まず一つ目は、相続財産の処分には、単純承認をする、言い換えると、限定承認や相続放棄をしない、という意思が含まれていると推定されることです。

二つ目は、処分を信頼した第三者の信頼を保護することです。
これから詳しく見ていきますが、処分にあたる行為は、所有者、つまり相続の場面では被相続人から権利を受け継いだ人のみに許されるような行為ばかりです。そのような行為をするのならば、それを見た周囲の人は単純承認をするのだ、その意思があるのだと考えるのも無理はありません。そのように考えた人を守ろうということです。

不動産の売却や解体、名義変更

売却は不動産の所有権を他の人に移転させることなので、通常は、法的な意味での処分にあたります。例えば被相続人の家などの不動産をいらないからといって売ってしまった場合、その行為が処分行為と判断されて単純承認とされてしまうことがあります。

解体は、その不動産を破壊し、なくしてしまうことですから、事実的処分にあたります。

例えば、被相続人の家を古いからと言って取り壊してしまった場合も、単純承認とされてしまいます。ご自分にとってはいらないものであったとしても、財産に含まれている以上、勝手に処分をしてしまうことはリスクがあります。

名義変更は、上記2つの行為とは違うようにも見えますが、一般的に法定単純承認が成立するとされています。被相続人の財産について、相続人本人に名義を変えてしまったような場合は、この名義変更にあたります。名義変更もまた、処分と同様に、所有者が行う行為であり、これらと同じように考えられるからです。

株式や自動車など、価値のある財産を売却する

不動産だけではなく、株式や自動車などの財産を売却する行為も、他の人にその権利を渡してしまう行為ですので処分行為にあたります。そのため法定単純承認事由に当てはまることになります。

たしかに、株式として持つよりも、現金に換えてしまったほうが、管理がしやすいと思うことがあるかもしれません。しかし、それが、相続放棄の選択肢を消す場合もありますので、気をつけましょう。また、自動車についても、使っていた故人が亡くなり、必要がなくなったからといって売ってしまうと、相続放棄が出来なくなってしまう可能性があるので注意しましょう。

また、自動車税についても支払いをする際には注意が必要です。そもそも相続放棄をするのであれば、その税金の支払い義務もなくなりますので、払わなかったとしても問題はありません。それどころか、被相続人の財産から自動車税の支払いをしてしまった場合には、法定単純承認事由にあたる場合があります。支払いをするなら、被相続人の財産ではなく、相続人の財産から支払いをするようにしましょう。

善意からした、まじめに納税義務を果たそうとする行為であったとしても、この行為が相続放棄を妨げてしまう場合もあります。

ケース2:故人の預貯金を引き出して使う

故人の預貯金を引き出して自分のために使うことは、相続財産を減らす行為であり、処分にあたります。少しだけ、と思ったとしても、その少しだけ、が相続放棄の妨げになってしまうことがあります。相続放棄を少しでも考えているのであれば、預貯金を使ってしまうことはどんなに少額であったとしても、避けるようにしましょう。

一旦相続財産から立て替えて、後ほど自分の財産で補填をするという行為であっても、非常にリスクの高い行為となりますので、注意してください。

ケース3:故人の財産から借金や税金を支払う(弁済)

被相続人の債権者から支払いを督促され焦りを感じる場合もあるかもしれません。
しかし、故人の財産から借金や税金を支払う行為は、法定単純承認事由にあたります。
ただし、後述のように、もしそのお金の出所が、自身の財産からというわけであれば法定単純承認の原因となる処分行為にはなりません。

もし、どうしても気になってしまうのであれば、被相続人の財産からではなく、ご自身の財産から支払いや返済をするようにしましょう。

ケース4:価値のある遺品を形見分け・売却する

前のケースで説明した不動産や自動車といった大きなものだけではなく、自宅の中にある小さな物であっても注意が必要です。個人が使用していた家財道具や宝飾品の中には、一定の値が付くものも存在するかもしれませんが、「これくらいなら大丈夫だろう」と安易な気持ちで行動することは危険です。

価値のある遺品を形見分けや売却してしまった場合も、他の例と同じで、処分行為となる可能性が高いです。
遺品整理の際の注意点については、以下の章で詳しく説明をしますので、そちらの説明もご参照ください。

ケース5:遺産分割協議に参加して合意する

遺産分割協議は、遺産をどのように分けるか、それぞれの相続人が引き受ける遺産の具体的な割合を決めるための、相続人間の話し合いです。
それに対して、相続放棄をするということは、すべての相続財産の承継をする権利を放棄し、初めから相続人ではなかったとみなされるようになるということです。

遺産分割協議に参加して具体的な遺産の分割方法について合意を行うということは、相続財産についての処分を決める話し合いに参加して一定の意思表示をしたということになりますので、相続人であることを態度で示したようなものですから、その事実に反する相続放棄という選択肢をとることは許されないのです。

ケース6:相続開始を知ってから3ヶ月以上放置する

先ほど書いてあるように、相続への対応の選択肢3つの中から一つを選ぶために与えられた期間、つまり熟慮期間は3か月です。3か月を過ぎると、単純承認をしたとみなされます。そして、相続放棄や限定承認という他の選択肢をとることができなくなるのです。

ケース7:故人が住んでいた賃貸物件を解約する

賃借権も被相続人が有していた権利であり、相続財産に含まれますので、被相続人である故人が住んでいた賃貸物件を解約するような場合も、相続財産の処分行為として法定単純承認が成立する可能性があります。

自分は今後住むつもりがない場合であっても、「もうだれも住んでいないから」と解約してしまうことは非常にリスクの高い行為となりますので、ご注意ください。
一方で、賃料を被相続人の貯金から支払っている場合に、被相続人の財産が減ってしまうことを防ぐために、解除をするような場合には、財産を保全する行為、保存行為として法定単純承認事由とはならない場合もあります。

しかし、ご自身が、保存行為だと思ってしたことであっても、当該行為について、裁判所が同様の判断をするとは限りません。もし仮に、裁判所が保存行為には該当しないという判断をした場合には、単純承認をしたとみなされてしまうことになります。

この判断は難しいものになります。そして、単純承認があったと認められてしまったら、もう相続放棄はできないことになります。そのような判断を誰にも相談せず、ご自身でなさることはとてもリスクが高いことであるように思われます。

ぜひ、一度、専門家に相談してみるようにしましょう。

【特に注意】遺品整理で単純承認にならないためのポイント

親族がなくなった場合には、遺品の整理を行うことになるでしょう。
しかし、遺品も被相続人の財産でありますので、限定承認や相続放棄を考えている場合には、注意して進める必要があります。

不動産や自動車といったものは感覚的に手を出してはいけないとわかったとしても、遺品整理まで注意しなければならないというところまで考えが至らない方は少なくないのではないでしょうか。
意外と危険がある遺品整理についても、以下で詳しく見ていきましょう。

「財産価値の有無」が判断の分かれ目

やってもいいこと、を考えるときに、一つ判断の手掛かりとなるのが、客体の「財産的価値の有無」です。財産的価値を有する物について行為を加えてしまうと、それは、処分と評価されてしまうことが多くなります。逆に、財産的価値がないものに対して行為を加えたとしても処分と解されることは少なくなります。
一般的に見て、価値がある、とみなされるものを受け取ってしまうと、法定単純承認とみなされるリスクがとても高いです。以下で、詳しく見ていきます。

やっても良い遺品整理・形見分け

まず、だれが見ても明らかなごみなどは、捨てたとしても問題はありません。
また、故人が生前身に着けていた衣類や、生活に使っていた道具などの受取りといった行為は、処分行為とはみなされない、すなわち、やっても良い遺品整理・形見分けに分類されることが多いと考えられます。

故人やそのご家族にとっては思い出の詰まった日用品や普段着であっても、財産的な観点から考えれば、特に価値のあるものとは言えないからです。

法定単純承認の条件に当てはまる行為は、相続放棄前であれば「処分」、放棄後であれば「隠匿」や「消費」にあたる行為です。そのため、財産的に価値のあるものに対する行為であっても、これらにあたらないものであれば問題ありません。例えば、整理をしていた時に出てきた高価なアクセサリーを、紛失防止のためにどこかにしまった場合などは、上記行為に該当しないと思われますので、行っても問題のない行為ということになります。

やってはいけない遺品整理・形見分け

逆に、やってはいけない遺品整理・形見分けと分類されることが多い客体としては、高価なアクセサリー類や、時計、その他高額なものがあります。
これらの物品について、売ったり、誰かにあげてしまったり、捨てたり、自身でもらったりしてしまうと、法定単純承認事由に該当するいずれかの行為に当てはまってしまう可能性があります。

判断に迷う遺品はどうすればいい?

相続放棄をするのか、しないのかは、あなたの人生にとても大きな影響をもたらすことです。
その後の人生の選択の幅も変わってくるかと思います。少し気になるけど、このくらいは大丈夫だろう、という安易な判断がその後の人生を大きく変えてしまうことになるかもしれません。
過去の裁判例を見ても、「形見分けであれば構わない」というような包括的な判断をするのではなく、個別の事案ごとに処分行為に該当するか否かを判断しています。

そのため、一般の方が、特定の遺品について判断を行うのは非常に困難だと思います。基本的には何もいじらないという姿勢を取りつつ、少しでも判断に迷う、引っかかることがあるのなら、大事をとって弁護士などの専門家にぜひ相談をしておきましょう。

相続放棄をしても「やっても良いこと」一覧

ここまで、限定承認や相続放棄を行う場合にやってはいけないことについてご紹介してきました。
しかし、逆に考えれば、単純承認とみなされない行動であれば、相続人は行っても構わないということになります。
では、限定承認や相続放棄を考えている場合であっても、行うことができる行為について、以下で見ていきましょう。

相続財産の調査

相続財産の調査は、相続財産について何らかの処分を加える行為とは性質の違うものです。また、相続放棄をするかどうかの判断をするときには、プラスの財産がどれほどあって、マイナ
スの財産がどれほどあるのかを正しく把握することが必要です。
そのため、相続放棄を考えている場合であっても、先に相続財産の調査を行うということは問題ありません。

実際に、相続財産を調査したうえで※、承認するか放棄するかを判断したいというご相談をいただくことも少なくありません。

※この相続財産の調査を、相続財産調査といいます。相続財産調査では、貯金であれば取引先の金融機関を特定したうえで、その金融機関に口座の残高等を確認します。不動産であれば法務局での登記事項証明書を取得したり、税務署等で固定資産評価証明書を取得したりします。
借入金であれば督促状の探索をしたり、信用情報を管理する機関へ情報開示請求などをしたりします。このようにして、ご自身の財産状況を正確に把握することで、とるべき選択肢を考える一助になります。

生命保険金や死亡退職金、遺族年金の受け取り

被相続人が生前に生命保険に加入していたり、死亡退職金があったたりしたような場合には、たとえ、その受取人として指定されている人がその死亡保険金、死亡退職金などを受け取ったとしても、問題はありません。当然、取得した保険金や退職金を自己のために使用しても問題はありません。

受取人が特定の相続人と指定されている生命保険金や死亡退職金は、一般に相続財産ではなく相続人の固有の財産と考えられています。そのため、相続財産の処分行為には当たらないと考えられるためです。

ただし、被相続人の生命保険金や死亡退職金について、その受取人がだれになっているのかはきちんと確認するようにしましょう。受取人がもし、被相続人になっている場合には、その保険金は相続財産に含まれます。その分の財産について使ってしまえば法定単純承認になってしまうことがあるので十分に注意をしてください。

故人の財産から葬儀費用を支払う(注意点あり)

葬式は、亡くなった方の人生最後の儀式であり必要性が高いものです。しかし同時に、その時期を予想することは困難である場合も多いうえに、近年は費用を抑えたプランが出てきているとはいえ、やはり、葬儀費用もそれなりの金額になります。
そのため、相続財産の一部を葬儀費用に充てたいと考える方は少なくないのではないでしょうか。

裁判所は相続財産から支出をしたとしても社会的見地から不当なものとはいえない、また、相続財産があるのに、それを使用することができないがゆえに、相続人の財産のみでは葬儀費用が足りず葬儀が執り行えないとなればそちらのほうが非常識であるとしています。(大阪高等裁判所 平成14年7月3日決定)
同じ裁判例では、仏壇や墓石の購入に相続財産や香典を使用した場合にも、必ずしも法定単純承認事由に当たるとは限らないとしています。

とはいえ、法定単純相続事由にあたるとはいえないといっても、社会的にみて不相当に高額なものといえない範囲内であることが必要でしょう。必要以上に高額な支出をすれば、相続放棄が認められないような場合は十分に考えられますので、お気を付けください。
結局のところ、相続財産から支出をすることは単純承認とみなされる可能性が否定できませんので、ご自身の財産から支払いを行うということが、リスクが少ない無難な選択ということになるでしょう。

自分の財産から未払いの入院費や税金を支払う

上記のとおり、相続財産から被相続人の債務を弁済した場合には、法定単純承認が成立しますが、ご自身の財産から支出をした場合には、法定単純承認は成立しないとされています。
法定単純承認は、被相続人の財産を承継するのだと周囲から思われるような事由がある場合に認められます。

ご自身の財産からお金を出すような場合には、被相続人の財産の処分とは認められず、法定単純承認にはならないのです。

督促状が来たり、支払いを促されたりすると、相続放棄をする場合には支払いをする義務はないのだと頭ではわかっていても、本当に払わなくていいのだろうかと不安になり気をもむこともあるでしょう。その気がかりを解消したく、支払いをしてしまいたくなることがあるのではないでしょうか。
そんなときは、相続財産から支出をしないことだけはきちんと気を付けるようにしましょう。

財産の価値を維持するための「保存行為」

保存行為をした場合には、法定単純承認が成立することはありません。保存行為は処分行為ではないからです。
保存行為とは、簡単にいえば、財産の価値を維持するための行為のことです。
たとえば、被相続人の自宅に対する保存行為を考えてみましょう。生ごみが大量にあったような場合にこれを捨てる行為などが代表例でしょうか。また、家が壊れかけていてそれを修繕した場合も、その家の価値を保存する行為といえるでしょう。

もしNG行為をしてしまったら?すぐに専門家へ相談を 

ここまで書いてきたことはあくまでも原則的な場合のお話です。NG行為をしてしまったとしても、個別のご事情によっては、相続放棄が認められる可能性が残されているかもしれません。あきらめず相談してみましょう。

単純承認が成立すると相続放棄はできない

最初にも書きましたが、単純承認が成立すると相続放棄はできなくなってしまいます。
単純承認とみなされてしまった場合には、被相続人の積極・消極財産を全て承継することになりますので、特に多額の負債が存在するようなケースの場合には、その後の人生に大きな影響を与えることになります。

「知らなかった」では済まされない!不安な場合は弁護士に相談を

法律を知らなかったからという事情が影響を与えることは基本的にありません。知らずにやってしまった、ということは法定単純承認の成立不成立に影響を与えないのです。
NG行為をしてしまった場合であっても、相続放棄が認められる可能性はゼロではありませんが、やはり非常に厳しいものになることは否定できません。

相続放棄を決意される以上、それ相応のご事情があるのでないかと思います。
そうであるならば、確実に相続放棄の効果を得ることができるよう、少しでも気にかかることがある場合には、事前に法律の専門家である弁護士に相談をしてみるべきでしょう。
単純承認とみなされてしまうような行為をしてしまったとしても、やってしまった、だからもう駄目だとあきらめてしまうのではなく、速やかに専門家に相談してみましょう。道が開けるかもしれません。

まとめ|相続放棄は慎重に!迷ったら専門家を頼ろう 

被相続人が亡くなってすぐには、すべきことも多く、また、心にも余裕がないときかと思います。落ち着いて、冷静な判断をすることがなかなか難しいこともあるのでないでしょうか。
ここまで書いてきたように、善意でした少しのことが、相続放棄をできなくさせ、人生を大きく変えてしまうことがあります。

後悔のない選択ができるように、より多くの選択肢を残せるように、早めに専門家に相談してみましょう。
今より落ち着いて考えられるようになるかもしれません。

アトラス総合法律事務所では、相続問題に強い弁護士が在籍しており、豊富な相談実績を誇っております。
相続放棄をはじめ、相続の問題でお悩みの場合には、どうぞお気軽にご相談ください。

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