不当解雇をされそうな方へ
「明日から出社しなくていいよ。」
「退職届を書いてくれないか。」
突然,このような事を上司に言われたとき,どのように対処したらよいのでしょうか。
「仕方がないからその通りにすべきなのか」と考える方も少なくありませんが,解雇は会社側から簡単に出来るものではありません。
理由のない不当解雇は無効なのです。
1 解雇
解雇とは,「使用者による一方的な意思表示による労働契約の解除」と定義されます。
そして,解雇には普通解雇,整理解雇,懲戒解雇の3種類あります。
(1)普通解雇
普通解雇とは,労働者が雇用契約に定められた契約内容の履行が出来ない場合や不完全な履行のために会社都合による解雇を指します。
よく言われるのが勤務不良などの労働適格性の欠如や業務命令に反するなどの規律違反が挙げられます。
これらは就業規則に定められている解雇理由に基づきます。
(2)整理解雇
整理解雇とは,会社の経営状況がひっ迫し,従業員数を削減する必要性に基づきされる解雇(リストラ)を指します。
(3)懲戒解雇
懲戒解雇とは,労働者の企業秩序違反行為(非行)に対する制裁としての解雇を指します。
例えば,職場内で窃盗や横領などの刑法犯に該当する行為をしたなどです。
2 解雇の要件
解雇の理由がそれぞれ異なるとしても,解雇は無条件に認められるものではなく,解雇権を濫用されていると評価される場合には解雇無効となります。
(1)普通解雇
普通解雇の場合は,「客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合」には,解雇の権利を濫用したものとして無効とすると定めています(労働契約法16条)。
個別具体的な事情によって判断がなされます。
(2)整理解雇
整理解雇の場合も解雇権濫用の法理の適用がありますが,主に4要件といわれるものを満たすか否かで解雇権濫用による解雇の有無が判断されています。
①人員削減の必要性
②解雇回避の努力
③人選の合理性
④説明義務
(3)懲戒解雇
懲戒解雇の場合,懲戒権濫用による解雇の有無で判断されています(労働契約法15条)。
主な要件としては,
①懲戒事由及び懲戒の種類が就業規則で明定され,周知されていること
②規定の内容が合理的であること
③規定に該当する懲戒事由があること
④その他,罪刑法定主義類似の原則,平等取扱の原則,相当性の原則,適正手続が備えられていること,
の観点から判断されます。
3 解雇予告と解雇予告手当
従業員が突然解雇を言い渡された日のうちに解雇されると,その従業員の生活の糧が失われてしまいます。
仮に解雇されたとしても従業員の再就職を準備する機会を与えなければならないとして,法律では従業員を解雇する場合には,少なくとも30日前に解雇の予告(通知)をすることが必要とされています。
また,30日前に解雇の予告(通知)をしなかった場合には,30日分の平均賃金を会社が支払わなければならない,と法律上定められています(労働基準法20条1項)。
この金銭のことを「解雇予告手当」と呼ばれます。
そして,解雇予告や解雇予告手当は,先ほどの解雇全般に適用されます(普通,整理,懲戒)。
例外的に,解雇予告や解雇予告手当を支給せずに即日に解雇する場合が認められていますが,要件としては,解雇予告制度で労働者を保護する必要がないくらい労働者側の悪質な行為が解雇の理由に基づくもの(例えば,職場内で窃盗や横領などの刑法犯に該当する行為をした,等)であって,労働基準監督署に解雇予告の除外認定を受けなければなりません。
解雇される場合には,労働者の権利として解雇予告制度や解雇予告手当の制度があることを覚えておいてください。
4 退職勧奨と解雇の違い
退職勧奨とは,会社側から従業員に退職を促すことを指します。
一方的な解雇とは違い,退職勧奨の求めに対して授業員が自由な意思に基づいて応じた場合に,雇用契約が終了するものです。当然に強制力があるものではないので,従業員が断れば会社側は従業員を退職させることは出来ません。
ただし,会社側が執拗に退職勧奨を行い,「勧奨」の範囲を超えて脅すような言動を用いたり,辞めなければならないように退職を強要する場合には,実質的に「解雇」と評価される場合もあります。
5 派遣社員やアルバイト,パートも正社員と同じく法律上の保護の対象
「派遣社員やアルバイト,パートの雇用形態だと,正社員と違うから,解雇しやすい。」という話はよくありますが,法律上,正規社員でも非正規社員でも「労働者」として保護の対象となっています。
したがって,派遣社員やアルバイト,パートの方でも,解雇をするには解雇が認められるだけの理由が必要となりますし,解雇予告や解雇予告手当制度も適用されます。
6 疑問に思ったらすぐに弁護士にご相談下さい
解雇は会社側が様々な理由に基づいて言い渡すものですが,解雇が認められるだけの状況が整わなければ従業員が会社を辞めることは出来ません。
そして従業員は正社員に限らず,派遣社員,パートやアルバイトも等しく適用されます。
解雇の理由は,一般的・抽象的な要件を具体的な事情に基づいて判断する枠組みなので,解雇が相当なのか不当解雇なのかは判断が非常に難しいものです。
実際に会社側から解雇を言い渡された場合(又は言われそうな状況と感じた場合)には,直ぐ弁護士に相談をして,あなたの置かれている状況を聞き取ったうえで,今後どのような手段や方法を採るべきか,打ち合わせることがとても大切です。