「遺産分割に納得できない」「遺留分を請求したい」、特に不動産が絡む複雑な相続問題に解決事例多数。また、弊所では揉めない相続、トラブルのない親族関係を推奨しているため、「遺言書の作成を検討している」方のお手伝いを積極的におこなっております。
遺言・相続業務について
- 身内が亡くなってしまい、今後何をすればよいのかわからない
- 相続放棄をしたいけど、手続きがわからない
- 相続人・相続財産がわからず遺産分割協議がなかなか進まない
- 遺言を作成したい
- 遺言があるから大丈夫と思っていたら、突然、遺留分を請求する書面が届いた
このような不安をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
相続は、死亡によって当然に開始します。(民法882条)そして、人間であれば、いつか死が訪れます。したがって、相続とは、誰であっても避けて通ることのできない問題ということになります。
一言で相続といっても、そこには様々な問題が潜んでいます。例えば、相続人は誰なのか、相続の対象となる財産はどれなのか、相続の対象となる財産をどうやって分けるのかなど少し考えただけでも相続に関係する問題はたくさん出てきます。
「特定の親族に多く財産を渡したい」という場合や、逆に、「特定の親族には財産を渡したくない」という場合もあると思います。しかし、こういった場合、相続した財産が少なくなってしまった相続人から「遺留分減殺請求権」または「遺留分侵害額請求権」と呼ばれる権利を行使されるかもしれません。こういった請求に対しては、どのように対処すればいいのでしょうか。
また、「本来は相続人ではない人に対して、自分の相続財産を渡したい」という方もいらっしゃるでしょう。これを実現する方法として、例えば「遺言」を作成するという方法があります。では、遺言はどうやって作成すればいいのでしょうか。
さらに、相続とは切り離せない問題として、「相続税」の問題もあります。
「自分はそんなに多くの相続財産を持っていないから、、」「自分の家族は仲がいいから、、」などと思い、まさか自分の相続が紛争の種になることはないだろうと思われる方は多いでしょう。しかし、現実には、被相続人(死亡した方)の生前には、仲の良かった家族が、いざ相続の段階になると揉めてしまうというようなケースが多く存在します。
ご自身の亡くなられた後に、親族間で紛争が起こることなく相続手続きが完了することが最も望ましいことですが、現実はそううまくいきません。したがって、紛争をできるだけ防止するため、事前の準備をしておくことが大切です。
遺言書を作成したい方へ
相続に関しては、法律によって決定されている事項が多くあります。例えば、相続人となる人は、民法887条、888条、890条などによって規定されています。したがって、法律上は、子と配偶者が最優先の相続人となります。
では、被相続人としてはこれらに規定されている人以外には、自身の相続財産を渡すことはできないのでしょうか。これを実現する方法として考えられるのは、「遺言書」を作成するという方法です。
遺言とは、一言でいえば、被相続人の意思を法律関係に反映させようという仕組みです。すべての事項が遺言書によって決められるわけではありませんが、法定されている事項であれば、民法の原則より遺言書の内容が優先されます。法定されている事項の例としては、相続分の指定(民法902条)や遺産分割方法の指定(民法908条)などがあります。
つまり、民法上相続分は1/2になっている場合でも、遺言書によって相続分を2/3とすることも可能ということです。また、相続人としては法定されていない内縁の配偶者に、相続財産を渡すことも可能ということになります。このように、遺言は、被相続人の意思を尊重することができる有益な方法といえます。
遺言書を作成することにより、相続手続きの紛争を防止することも可能です。どんなに仲の良い親族間であっても、いざ相続手続きを行うとなると険悪な関係になってしまうケースも少なくありません。しかしこれでは、円滑に相続手続きを行うことができません。また、このような場合には感情も絡むことによって、長期の激しい紛争となってしまうこともあります。そこで、相続手続きにおいて発生しうる紛争を未然に防ぐ手段として、遺言書を有効に活用することも考えられます。
しかし、遺言書は誰でも、どのような方法でも作成できるというものではありません。ご自身の意思が遺言書の作成によって実現できるものなのか、専門家へご相談することをお勧めします。
遺言書の種類と特徴
遺言書を作成する方式は、ご自身が作成しようと思っている遺言書によって異なります。遺言書の効力が発生する時点(遺言者の死後)には、遺言者にその真意を確認することができないので、方式が守られておらず、疑義が生じかねない遺言は無効となってしまいます。
そのため、ご自身が作成しようとしている遺言がどの類型に当てはまるのか、きちんと確認する必要があります。
遺言書は大きく分けて、「普通方式」と「特別方式」があります。しかし、特別方式はその名のとおり特別な状況にあるときのものであり、ふつうは行われません。そこで、ここでは、普通方式の遺言について説明します。普通方式の遺言には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の類型があります。
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自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が自らの手で書く遺言書のことです。具体的には(1)遺言の内容全文、(2)日付、(3)氏名をすべて自署し(4)押印する必要があります。(ただし、相続財産目録に関しては例外があります。)
メリット
・方式が簡単
・費用が掛からない
・内容が他人に知られにくいデメリット
・紛失や破棄、偽造、変造のリスク
・方式の不備による無効の危険性
・死後に家庭裁判所での検認手続が必要 -
公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言者が公証人に遺言の内容を伝え、公証人が公正証書により遺言を作成する遺言書のことです。
メリット
・方式の不備や内容が不明確になるといったおそれが低い
・公証役場に原本が保管されるため、偽造等のリスクが低い
・検認手続不要デメリット
・公証人や証人2人の関与が必要と方式が少し煩雑
・費用が掛かる
・遺言書の内容を他人が知ることになるため秘密保持がされない危険性 -
3 秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、自筆、代筆やパソコンで作成した遺言書を自筆で署名押印して封印し、公証人の立ち合いの下、遺言であることを確認する方法の遺言書で、遺言書の存在は明らかにしつつも、遺言の内容を秘密にすることができるものです。
メリット
・遺言内容は秘密にできる
・遺言が偽造や変造されにくいデメリット
・遺言書が紛失、発見されないおそれがある
・遺言の内容や方式に不備があれば遺言が無効になるおそれがある
・公証役場での手続きが必要
・家庭裁判所の検認手続が必要
以上、簡単にではありますが、各遺言の類型をまとめました。より詳しい特徴や、具体的な手続き等が知りたい方は、専門家へご相談ください。
遺言書を絶対に作成した方が良いケース
遺言書は、相続人間でのトラブルを未然に防ぐために有効なものです。しかし、それだけではなく、遺言書を作成することによって、法定相続の手続きではできない内容を取り決めることも可能です。そのため、遺言者の意思をより尊重することが可能となります。
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法定相続人ではない人に財産を残すことができる
相続財産は、相続人間で分割されるのが原則です。そして、相続人となる人は民法により規定されています。(民法887条、889条、890条)したがって、遺言書が作成されていない場合、民法に規定されている相続人(配偶者、子、親、兄弟姉妹など)になります。
しかし、これでは、内縁関係にある人や親しくしていた友人などは相続することができなくなってしまいます。そのため、これらの人に相続財産を渡したい場合には、遺言書を作成し、その旨を明記する必要があります。
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残された家族の面倒をみてもらう内容の取り決めができる
遺言書を作成する方が、高齢の配偶者と二人で住んでいるといった場合、自分の死後の配偶者の生活が心配ということもあるでしょう。また、家族とは必ずしも人に限られるわけではありません。自分の死後、かわいがっていたペットの面倒はどうなるのかと心配の方もいると思います。
確実に自分の代わりに面倒をみてくれる人がいればよいのですが、そういったケースばかりではありません。自分の死後には誰も面倒をみる人がいなくなり、放置されてしまうことも考えられます。
そのような事態を避けるため、例えば、遺言書に「特定の財産を相続することの負担として、ペットの世話をみてほしい」という内容の遺言を作成することで、遺言者の死後、ペットの世話をみてくれる方にペットを託すことができます。
ただ単に「ペットの世話をみてほしい」とだけ記載した場合には、法律的な拘束力が発生しない可能性があります。そのため、ペットの世話をみることを条件として財産を贈与するという、「負担付遺贈」の形式にすることにより、有効な遺言書として、遺言者の意思を尊重することができます。 -
相続手続が円滑に進む
遺言書を作成しない場合、相続人間が協議した上で遺産の分配方法を取り決めますが(「遺産分割協議」と呼びます。)、相続人の一人でも非協力的で遺産分割協議が整わないと、預貯金の払戻や不動産の売却手続き等を進めることができなくなります。
そうなると、遺産分割協議が整うまでの間の不動産の固定資産税は誰が払うのか、など様々な問題に直面し、ますます相続人間での関係が悪化することになります。
そこで、遺言書を作成し、遺言の内容を執行する者(「遺言執行者」と呼びます。)を予め指定しておければ、遺言の内容が極端でない限り(「遺留分」の問題が別途生じることもありますが)、遺産分割協議の手間が省けるとともに、遺言書の記載内容が遺言執行者により速やかに行うことができることで、相続人間の負担の軽減につながります。
遺言書を作成しないデメリット
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相続人間での関係の悪化、遺産分割手続の停滞
遺言書が作成されていない場合、遺産分割協議とよばれる手続きによって遺産の分配方法を決めるのが一般的です。しかし、非協力的な相続人やそもそも連絡が取れない相続人等がいた場合、遺産分割協議を行うことができず、その結果として、預貯金の払戻や不動産の売却手続き等を進めることができないという事態に陥ることが想定されます。
このような場合、遺産分割協議が成立するまでに様々な負担が発生し、これが原因で相続人間の関係が悪化するケースもあります。そして、相続人の関係が悪化してしまうと、ますます遺産分割協議が難航するという悪循環に陥ってしまう可能性もあります。
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法定相続人以外への相続財産の承継ができない
相続財産は、相続人間で分割されるのが原則です。そして、相続人となる人は民法により規定されています。(民法887条、889条、890条)したがって、遺言書が作成されていない場合、民法に規定されている相続人(配偶者、子、親、兄弟姉妹など)になります。
また、配偶者以外の法定相続人には、その優先順位が法定されています。(民法900条各号)これに従うと、相続順位は、子→直系尊属(親など)→兄弟姉妹となります。
言書が作成されていない場合には、上記の法定相続が起こります。したがって、法定相続人ではない友人や、内縁配偶者などに遺産を相続させることができません。
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3 被相続人の生前の意思が反映されない
遺言書に記載することができるのは、相続財産に関する事項には限られません。例えば、先祖のお墓の管理(祭祀承継)や親族・ペットの面倒などがあげられます。これらについても、予め相続人の意思を明確にしておかないと、被相続人が考えていた人物とは異なった人物がこれを行う可能性がありますし、これらの事項をめぐって死後に紛争が発生する可能性もあります。
相続の種類と効果・特徴
相続の種類は、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3種類あります。その中には特別な手続きを必要とし、その手続きに期間制限があるものもあります。そのため、それぞれの特徴をまとめていきたいと思います。
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単純承認
単純承認とは、「無限に被相続人の権利義務を承継する」相続のことを言います。(民法920条)「無限に」というのは、被相続人の債権債務をすべて引き継ぐという意味です。
単純承認をするために必要な手続きは特にありません。後に出てくる単純承認や相続放棄の意思表示をしなかったことなどによって単純承認と扱われる(民法921条)というケースが一般的です。
単に「相続」と言った場合、通常はこの単純承認を指します。
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限定承認
限定承認とは、「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をする」相続のことを言います。(民法922条)簡単に言うと、相続人の財産がプラスであればその分を相続し、マイナスであれば相続をしないということです。
相続財産の範囲が不明確な場合、相続人が負債を負うというリスクを回避することができるという点がメリットです。
他方で、手続きが煩雑で、相続人全員の共同でのみ限定承認が可能という点が大きな負担となっています。具体的な手続きとしては、相続の開始を知った日から3か月以内(民法915条)に、財産目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認する旨を申述することになります。(民法924条)
その後も、5日以内にすべての相続債権者及び受遺者に対し限定承認をしたこと及び一定の期間内(2か月を下らない期間)にその請求の申出をすべき旨を公告して、期間満了後に債権者や受遺者に弁済する(民法929条、931条)という流れになります。
このように、限定承認には負担が大きく、あまり使われていません。仮に限定承認を行う際には、煩雑な作業を伴いますので、弁護士に依頼した方が良いでしょう。
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相続放棄
相続放棄とは、相続の効力を拒否する手続きのことです。家庭裁判所に対して相続放棄をする旨を申述し、放棄が認められると、その者は、「初めから相続人とならなかったものと」みなされ(民法939条)、権利義務の承継ができなくなります。
相続放棄は、家庭裁判所に対してその旨を申述することによりなされますが(民法938条)、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に手続きを行わなければなりません。(民法915条)この点に注意が必要です。
相続放棄が認められると、原則として、被相続人の権利義務が承継されることはありません。しかし、放棄をした場合であっても、一定の間、相続財産を管理しなければなりません。(民法940条)
この期間中に、例えば、相続財産に含まれる建物により、第三者に損害を与えてしまった場合、その損害を賠償する責任が生じる可能性がありますので、注意が必要です。以上の3種類がありますが、ご自身がどの手続きを行うべきなのか等、疑問に思った場合には、弁護士に相談されるのが良いでしょう。場合によっては、期限があるものもありますので、早目の相談をお勧めします。
相続できるものとできないもの
民法上、相続人は「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と規定されています。(民法896条本文)もっとも、実際には、被相続人が有していた権利義務のうち、相続人には承継されないものも存在します。
相続できるもの
相続できるものは、被相続人が有していた財産的価値のある資産及び負債です。
預貯金・株式などの金融資産や、自動車・不動産、骨董品や賃借権・特許権等など財産的価値のあるものについては相続財産の対象となります。他方で、住宅ローンや保証債務などの負債も消極的相続財産として相続の対象となります。
相続できないもの
被相続人の一身に専属した権利・義務
「被相続人の一身に専属した」権利義務は相続の対象とはなりません。(民法896条ただし書)
これに当たるものとしては、扶養請求権や雇用契約における労働者・使用者の地位、公営住宅の使用権、使用貸借上の借主の地位などがあります。例えば、父親が死亡した際、その子供が相続によって父親の勤務先の労働者となることはありません。
生命保険金
生命保険金は、受取人が誰になっているかによって場合を分けて考える必要があります。もっとも、基本的には生命保険金は、保険契約の効果として受取人が取得するものであって、原則として相続の対象にはなりません。
受取人が特定の相続人とされている場合、保険金請求権は当該相続人の固有の財産となり、相続財産にはなりません。したがって、相続の対象とはなりません。
受取人が、ただ単に相続人となされている場合、保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に相続人全員の固有財産となり、被保険者の遺産から離脱します。つまり、この場合にも、相続の対象とはなりません。これに対し、受取人が被相続人とされている場合には、相続の対象となります。
祭祀財産
「系譜、祭具及び墳墓の所有権」は祖先の祭祀を主宰すべき者が承継し、相続の対象とはなりません。(民法897条)祭祀財産の承継は、被相続人の指定、慣習、家庭裁判所の決定の順番で決定されます。(同条)
よくある相続トラブルと解決方法
相続手続きで発生しうるトラブルには様々なものがあります。遺産分割協議に関係するところでは、分割方法について相続人間で意見がまとまらない、相続人が多数いて連絡が取れない場合などが想定されます。
また、遺言書が作成されていた場合であっても、遺言者は認知症であったはずであり、遺言を作成する能力はなかったとして、その遺言書の効力が争われることがあります。遺言書の効力自体は争わない場合であっても、特定の相続人から遺留分の侵害額を請求される可能性もあります。
最近では、高齢の親を囲い込み、親の財産を無断で自己のために費消するといったケースも増えてきています。この場合、遺産分割協議の手続内で話し合い等によって解決できれば良いのですが、多くの場合はそうはいきません。不当利得または不法行為として請求していく必要があります。
このように、相続問題は単純に資産の分配というわけにいかず、様々なトラブルが発生する可能性があります。また、これらのトラブルは、根本的には感情によるところが大きいですので、当事者同士で解決をするとしても感情が解決を妨げます。解決にはそれなりの期間を要する事案もあり、その期間の負担も考慮すると、弁護士などの第三者を入れて解決にあたることが望ましいでしょう。
ただし、相続に関係する請求はいつまでもできるわけではありません。例えば、不当利得の債権は、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間」または「権利を行使することができる時から10年間」行使しないときは時効によって消滅してしまいます。(民法166条1項各号)これだけではなく、遺留分侵害額の請求や不法行為に基づく請求にも権利を行使する期間の制限が存在しています。
権利を行使することが可能な期間を経過してしまった場合、原則としてその請求をすることができなくなってしまいます。そのため、少しでも疑問に思ったことがあった場合には、すぐに弁護士に相談されることをお勧めします。
預金・現金の使い込み
被相続人が死亡した後、相続人間で遺産分割協議を行うことになりますが、その際に、被相続人の口座から多額の現金が引き出されていたことが明らかになる場合があります。
この場合、被相続人本人が引き出したということも当然考えられますが、被相続人はすでに寝たきりであったはずの時期に引き出されているなど、第三者による引き出しである可能性が高いケースも存在します。
これは、「使途不明金」と呼ばれる問題ですが、相続人としては、預金の使い道を明らかにし、それが不当なものであれば、返還を求めたいと考えるでしょう。
被相続人の生前に預金が引き出されているケース
被相続人本人による引き出しの場合
被相続人の生前の引き出しの場合、まず考えられるのは、被相続人本人による引き出しであるケースです。この場合は基本的には問題がありません。ただし、引き出された預金が特定の相続人のために使用されていたような場合には、「特別受益」(民法903条)として遺産分割手続の中で考慮されることになる場合もあります。
第三者による引き出しの場合
他方、被相続人ではなく、第三者による引き出しであるケースも存在します。この第三者は、同居の親族である場合が多いと思われますが、親族であっても他人であるため、問題が発生する可能性があります。
第三者による引き出しであっても、例えば、引き出しを被相続人から頼まれているといった場合には、基本的には問題がありません。被相続人本人による引き出しとほとんど変わらないからです。
他方で、無断で引き出す行為には、問題があります。もちろん、事後的に被相続人から追認が得られれればいいのですが、ここでは、それがないケースを想定しています。
第三者が無断で預金を引き出し、それを自己の利益に使った場合、被相続人には、その第三者に対して、不当利得返還請求権(民法703条)ないし不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)が発生します。ただし、無断で引き出した場合でも、それを被相続人本人のために使ったということであれば、これらの請求はできません。
被相続人の死後に預金が引き出されているケース
被相続人の預貯金債権は、遺産分割の対象となる財産とされています。したがって、遺産分割が終了するまでは、相続人であっても当該預貯金を引き出すことはできません。そのため、法定相続分を超える引き出しが行われた場合には、他の相続人に、不当利得返還請求権が発生します。
ただし、相続法の改正により、一定額の限度であれば預貯金債権を単独で行使することができる旨の規定が創設されました。(民法909条の2)いわゆる「仮払い」と呼ばれる制度です。
使い込みのケースで、引き出した本人が流用を認めている場合には、遺産分割協議内で考慮して解決することも可能です。しかし、現実にはこのようなケースは少ないでしょう。その場合には、当事者のみではなく、弁護人に依頼をし、法的な手続きによって返還を求めることになります。
ただし、法的な手続きを用いて返還を求めるには証拠が重要ですので、被相続人が自由に預金を引き出すことができないような状態であった事実とか、被相続人の財産を引き出せる環境に使い込んだ相続人があった事実など、使い込みや横領した事実が分かる資料を集めなければなりません。
また、仮にその他の相続人の主張が認められたとしても、使い込んだ相続人が返還できるだけの資力があるかどうかも問題となります 。使い込んだ相続人に相続分があり、ある程度の相続財産額となるのであれば、その部分から回収を図ることができるでしょう。しかし、そのような場合でなく、且つ、使い込んだ相続人に返還するだけの資力がなければ実質的な回収は難しいでしょう。
被相続人の相続財産が使い込まれるおそれがあったり、被害がまださほど出ていない状態であれば、被害回復の可能性は高まります。被害が拡大して回復が困難になる前に、早期に弁護士へ相談することをお勧めします。
遺言書が作成されていない場合
相続が発生した場合、遺言書が存在していれば、基本的にその内容に従って相続がなされます。しかし、遺言書は必ず存在するものではありません。一部は遺言書が存在する場合と重なることになりますが、以下、遺言書が存在しない前提で相続手続を概観します。
相続人の確定
まず、相続において問題となることは、相続人はいったい誰なのかということです。
誰が相続人となるのかは、民法に規定されています。それによれば、配偶者は常に相続人となり、血族相続人は子→直系尊属→兄弟姉妹の順番で相続人となります。(民法887条、889条、890条)
そこで、これらの人がいるのかどうかを戸籍等により確定していくことになります。
もっとも、推定相続人であった場合でも、相続欠格に当たる場合や相続放棄をしている場合などには、相続人には含まれないことになります。
相続分の確定
相続人が確定したら、次はどの範囲の財産を、どれだけの割合で分けることになるのかが問題になります。
相続財産の範囲については、一部の例外を除き、原則として被相続人に帰属する一切の権利義務が相続の対象となりますので、被相続人の預貯金や不動産、債権債務等の存否を調査して、相続財産を確定することになります。
相続の割合については、ここでは「法定相続分」と「具体的相続分」について触れておきます。
法定相続分とは、民法に具体的に規定されている相続分です。例えば相続人が配偶者と子供1人であった場合、法定相続分はそれぞれ1/2ずつになります。
しかし、法定相続分は、当事者の事情を全く考慮せずに割合だけを示したものなので、当事者の個別的事情を反映した相続分によって相続を行うことで、相続人間が公平になります。この個別的事情を考慮した相続分のことを具体的相続分と言います。
例えば、被相続人の生前に一定の援助を受けていた者の具体的相続分を少なくしたり(特別受益)、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者の相続分を増加させたり(寄与分)といったことがなされます。
遺産分割
相続人の範囲、相続割合が確定したら、残る問題は、個別の財産をどのように相続人に帰属させるのかという点です。例えば、自分の相続分が1/2なのはわかったけれど、その1/2を預貯金で受け取るのか不動産で受け取るのかといった問題はまだ残っているということです。
遺産分割は、基本的に共同相続人間の協議(遺産分割協議)によってなされます。しかし、当事者間の協議だけでは合意に至らない場合には、家庭裁判所の「遺産分割調停」や「遺産分割審判」を利用して、解決を図ることになります。
これで、遺産分割の手続きは終了です。あとは不動産の登記名義を変更したり、相続税の手続きといった相続によって得た財産の処理を行うことになります。
遺留分侵害額請求について
「遺留分」とは、被相続人の財産のうち、法律上その取得が一定の相続人に留保されていて、被相続人による自由な処分ができないもののことを言います。
被相続人の財産は、基本的に被相続人が自由に処分することができます。したがって、特定の相続人にすべて遺産を承継させたり、逆に、特定の相続人には遺産を承継させなかったりすることができるはずです。
しかし、相続制度は、遺族の生活保障や遺産形成への貢献の清算という側面もあるため、この機能との調和を図るものが遺留分ということです。
民法の改正以前には、「遺留分減殺請求」という制度が存在しましたが、相続法が改正され、「遺留分侵害額請求」という制度になりました。改正法下では、遺留分を侵害している者に対し、金銭の支払いを請求することになります。
自分が遺留分を侵害されているのか、侵害されているとしていくら侵害されているのかは、民法に規定されている計算式で出すことができます。以下にその計算式を書きますので、具体的な、財産の額等がわかっている場合には、この式に当てはめれば自分が請求できる遺留分侵害額を求めることができます。
遺留分侵害額の計算方法
遺留分侵害額=(遺留分※1)-(遺留分権利者の特別受益の額)-(遺留分権利者が相続によって得た積極財産の額)+(遺留分権利者が相続によって負担する債務の額)(民法1046条)
※1:遺留分の計算方法
遺留分=(遺留分を算定するための財産の価格※2)×(1/2又は1/3)×(遺留分権利者の法定相続分)
※2:遺留分を算定するための財産の価格
遺留分を算定するための財産の価格=(相続時における被相続人の積極財産の額)+(相続人に対する生前贈与(原則10年以内)の額)+(第三者に対する生前贈与(原則1年以内)の額)―(被相続人の債務の額)
具体的なケース
〈事例1〉
被相続人Aには不動産甲(4000万円相当)と預金2000万円があり、負債はありません。Aには配偶者Bと子供が2人(CとD)がおり、Aは「Dにすべての財産を渡す」旨の遺言書を残していたとします。この場合、BとCは遺留分侵害額請求として、Dに対しいくら請求することができるでしょうか。
このケースは、複雑な計算がいらないシンプルなケースです。まず、「遺留分を算定するための財産の価格」を求めます。もっとも、今回のケースでは生前贈与や被相続人の債務はないため、積極財産の額(4000万+2000万=6000万)が「遺留分を算定するための財産の価格」となります。
次に、各相続人の遺留分を算定します。このケースでは、直系尊属以外の相続人がいますので、(1/2又は1/3)のところは1/2となります。(民法1042条1項2号)そして、各相続人の法定相続分ですが、Bは1/2(民法900条1号)、Cは1/4(民法900条1号、4号本文)となります。
したがって、各相続人の遺留分は、以下のようになります。
6000万×1/2×1/2=1500万円
6000万×1/2×1/4=750万円
このケースでは、特別受益等はないため、上記の遺留分額がそのまま遺留分侵害額となり、この額をDに請求することができるということになります。
〈事例2〉
こちらの事例では、事例1より多少事実関係を複雑にします。
被相続人はA(不動産4000万円相当、預金2000万円、負債なし)で、Aには配偶者BとBとの間の子CとDがいます。また、Aは再婚であり、前妻Eとの間に子Fがいます。AはFを非常にかわいがっており、生前からFの生活のために3000万円ほど援助をしていました。また、Aには遺言書があり、その内容は、Fにすべての財産を与えるというものでした。この場合、F以外の相続人は、Fに対していかなる額の遺留分侵害額請求ができるでしょうか。
まず、Eは相続人ではないので、本事例で遺留分権利者となりうるのは、B、C、Dの3名です。そのため、この3名について考えます。
この事案では、被相続人に負債はありませんが、Fに対して生前に生計の資本として一定額を与えています。これが、相続人に対しての「特別受益」に当たり、10年以内になされたものであれば、「遺留分を算定するための財産の価格」に加算されます。(民法1044条3項)ここでは、この贈与額が加算される前提で話を進めます。
その場合、「遺留分を算定するための財産の価格」は積極財産と特別受益の和となるので、4000万+2000万+3000万=9000万円となります。
次に、各相続人の遺留分を算定します。このケースでも、直系尊属以外の相続人がいますので、(1/2又は1/3)のところは1/2となります。(民法1042条1項2号)そして、各相続人の法定相続分ですが、Bは1/2(民法900条1号)、CとDは1/6(民法900条1号、4号本文)となります。この事案では、子はC、D、Fの3名いるため、各子の相続分は1/6となることに注意しましょう。したがって、各相続人の遺留分は、以下のようになります。
9000万×1/2×1/2=2250万円
9000万×1/2×1/6=750万円
9000万×1/2×1/6=750万円
このケースでも、遺留分権利者に対する特別受益等はないため、上記の遺留分額がそのまま遺留分侵害額となり、この額をFに請求することができるということになります。
実際には、上記の式のすべての値がわかっているというケースは稀だと思います。そのため、多くの場合では、弁護士に依頼し、相続財産の調査を行い、遺留分侵害額の請求を求める調停等を申し立てることにより、自身の遺留分侵害額を確定することができます。
特別受益と寄与分
民法に規定されている法定相続分や被相続人による指定相続分は、相続人の相続割合を決める基準となります。しかし、機械的にこの基準を適用すると、相続人間で不公平な結果になってしまうケースもあります。
ここでは、相続人間の実質的な公平を図るために考慮される「特別受益」と「寄与分」について説明します。
特別受益
相続人の中に、被相続人の生前すでに財産的援助をたくさん受けていた者がいた場合、法定相続分を機械的に当てはめると不公平ですよね。
例えば、AとBのきょうだいがいたとします。Aは大学の学費などもすべて自分のアルバイトで賄い、基本的に実家からの援助は受けずに生活をしてきました。他方、Bは学費はすべて被相続人に払ってもらい、結婚の資金も出してもらい、家まで被相続人に買ってもらっていました。
AとBの親が死亡し、相続人はこの2人だけだとします。このとき、ともに被相続人の子だからとそれぞれ1/2ずつというのでは、Aは納得いかないのではないでしょうか。
民法903条1項は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」と規定しています。
これは、簡単に言えば、相続財産の価格を算定するにあたり、特別受益を考慮しましょうということです。
上記の例で、被相続人の相続財産が3000万円、Bの特別受益が2000万円だとすると、相続財産は5000万円(3000万+2000万)とみなし、これを基準に相続分を算定しようということです。
その結果、A、Bはそれぞれ2500万円ずつの相続分があるということになりますが、Bはすでに2000万円の特別受益があるので、今回の相続では500万円(2500万-2000万)を取得し、Aは2500万円相続で取得するということになります。
寄与分
特別受益は「これまで経済的援助を受けてきたのだからずるい」といった視点から、相続人の実質的公平を図るものと考えられます。他方「寄与分」は、「被相続人に対する貢献があるのだからこれを考慮してほしい」という視点から、相続人の実質的公平を図るものと言えそうです。
例えば、CとDというきょうだいがいたとします。被相続人はCとDの父親で、相続人はこの2人だけです。Cは被相続人の面倒をずっとみてきており、介護も1人で行ってきました。他方でDは、早々に家を出てそれ以降ほとんど連絡がなかったとします。
このケースで、Cの被相続人に対する貢献を相続分の中で考慮しようというのが寄与分制度です。
民法904条の2は、「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」と規定しています。
実際に数字を当てはめてみましょう。上記の例で、被相続人の相続時の財産は3000万円、Cの寄与分が1000万円と算定された場合で考えます。
まずは相続時の財産から寄与分を控除するので、2000万円(3000万-1000万)が相続財産とみなされます。そして、これを法定相続分で分けると、CとDはそれぞれ1000万円ずつということになります。Dは特に何もないので、1000万円が相続分となります。他方で、Cは法定相続分に寄与分を加算したものが相続分となるので、2000万円(1000万+1000万)が相続分となります。
実際に問題となるのは、今回のように簡単なケースだけではないと思います。ここでは説明しきれていない問題もたくさんありますので、何か相続手続に関して疑問があった場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
相続放棄
相続放棄とは、自己に対して相続の効果が生じることを拒否するものです。
相続によって承継するものは、被相続人の積極財産だけではありません。被相続人の消極財産、つまり負債も承継することになります。そのため、被相続人が生前負債の方が多かった場合には、相続によって損をするということになりかねません。
また、積極財産の方が多い場合でも、遺産分割協議を行うことを面倒に感じる方もいることでしょう。遺産分割協議を行うくらいなら、自分は相続をしなくていいという判断もあると思います。
相続放棄は、このように被相続人に消極財産の方が多かった場合や、面倒な遺産分割協議と関わりたくないといった場合に選択肢に入る手続きです。
相続放棄のメリット・デメリット
相続放棄手続は、相続の効果を否定する強力なものであり、当然メリットとデメリットがあります。以下にその一部を示します。
メリット
- 被相続人が負っていた債務負担を引き継がなくてよくなる
- 遺産分割による相続人間のもめごとから解放される
デメリット
- 被相続人の積極財産をも引き継ぐことができなくなる
- 撤回ができない
- 一定の行為を行うと単純承認とみなされる可能性がある
相続放棄の時間的制限
相続放棄は、相続開始後であればいつまでもできるというわけではありません。期間制限が存在します。具体的には、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に相続放棄の手続きをしなければなりません。(民法915条1項本文)
この期間を一般に「熟慮期間」といい、熟慮期間を過ぎてしまうと、相続放棄はできなくなってしまいます。
ただし、自己のために相続の開始があったことを「知った時」から3か月以内なので、相続開始から3か月以上経過している場合でも、相続放棄はできる可能性があります。
相続放棄の方法
相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続放棄の申述をすることによって行います。(民法938条)
申述には、相続放棄の申述書のほかに、被相続人の住民票除票又は戸籍附票、申述人の戸籍謄本などが必要になります。また、申述には、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手が費用として必要になります。