保険募集人が破産手続をすると保険募集人として仕事ができなくなり、会社をクビになるという話を聞いた方もいると思います。
折角、自己破産しても仕事を失ってしまえば生活ができませんので、現在保険募集人(保険営業職・生保営業レディ)として就業中の方、今後保険募集人の資格を取得する予定の方は
自己破産を躊躇されることも多いと思いますが、実際はどうなのでしょうか。
ここでは自己破産手続と保険募集人との関係性について説明していきたいと思います。
まず始めに、保険募集人とは保険契約締結の代理または媒介を担当する従業員を示します(保険業法19条~23条)。保険募集人になるには生命保険の場合は「一般課程試験」、損害保険では「損害保険募集人一般試験」の試験に合格する必要があります。
しかし、試験に合格しただけでは保険募集人として仕事をすることはできません。試験合格後に内閣総理大臣(金融庁)に届出を提出して登録を受ける必要があります(保険業法276条)。そして、登録には、保険業法規定の登録欠格事由(保険業法第279条)に該当しないことが必要となり、もし登録欠格事由に該当する場合は保険募集人としての登録を受けることができません。そして、この登録欠格事由の中には「自己破産手続中で復権を得ない者」が挙げられています(保険業法279条1項1号)。
つまり自己破産手続中の者は保険募集人としての登録ができないというになりますが、これは現に手続中の者を指します。すでに復権を得ていれば(破産手続が終了していれば)、登録欠格事由には該当しませんので登録が可能となっています。
これから保険募集人の登録を受けようとする方は、資格登録の届出前までに破産手続を済ませておく必要があります。
一方、すでに資格の登録済みの方については、保険業法に「①登録の取消処分または、②6か月以内の期間の業務停止処分を受ける場合がある」との規定がありますので(保険業法307条、抜粋)、破産手続をおこなうと処分の対象となります。しかし、この規定はあくまでも金融庁の裁量による任意的処分のため、必ずしも処分されるとは限らないのです。
過去の事例では、
①復権(破産手続終了)までの期間が短い場合
②復権後に破産手続をしていたことが判明した場合
③破産手続に至る経緯がやむを得ないと評価される場合
には処分の対象としないケースも多いです。特に同時廃止手続であれば、破産手続の開始と同時に復権を得られますので上記①、②のケースに該当し、処分の対象とはならない可能性が高いです。
もし管財事件となった場合でも、そもそも個人の保険募集人には破産手続をおこなった場合にその旨を自ら届ける義務はありませんので(保険業法第280条)、官報や信用情報を見られない限り、金融庁や勤務先に知られないまま復権を得ること充分可能です。
このように処分を受ける場合は限定的となっています。処分を受けなければ保険募集人として通常通りの業務ができますので勤務先の仕事に大きな影響はありません。勤務先をクビになる可能性は低いと思われます。
ただし、勤務先との雇用契約の内容などによっては異なってくる場合もありますので、保険募集人として就労中の方、これから資格を取得する予定の方で債務整理をご検討されている場合は、ぜひ弁護士にご相談されることをお勧めいたします。