はじめまして。アトラス総合法律事務所事務員の荻野純哉です。
私は、令和3年度から司法試験を受験し、4回目の令和6年度の司法試験で合格することができました。
アトラス総合法律事務所には、1回目の司法試験の受験後に入所し、そこから、司法試験に合格するまでの3年間お世話になりました。
この記事を読む人の多くは、おそらく司法試験の受験を想定しており、かつ、弊所で事務員としてアルバイトをすることを検討している方かと思います。もっとも、法律事務所の事務員のアルバイトと一口に言っても、各々の法律事務所の方針から、事務員ができる仕事の幅は大きく異なってきます。
そこで、今回はそういう方に向けて、アトラス総合法律事務所の事務員はどういう業務をするのか、また、その業務を通じて得た経験が司法試験にどう活きたのかといったお話しをさせていただこうと思います。
そして、最後に私の複数回受験中のことも書いているので、同じく複数回受験中の人で興味のある方は、その部分も読んでみてください。
アトラス総合法律事務所の業務内容
アトラス総合法律事務所(以下、アトラスとします。)では、電話対応や依頼者とのメールのやり取りといった一般的に事務員がするような業務ももちろん行いますが、アトラスではそれだけでなく、訴状や準備書面の作成、裁判例のリサーチ、事務所のホームページに掲載するコラムの作成など、法律知識を要する業務も行います。むしろ、法律知識を要する業務の比重の方が圧倒的に大きいです。
法律事務所によっては、コピーや電話対応、書類整理といった業務しかやらせてもらえず、法律知識を要する仕事は一切させてもらえないということもあるようです。そのため、アトラスは、法律事務所で実務に触れることで、司法試験の勉強に役立てたいという方には非常に適している職場かと思います。
その他にも、裁判所や役所等へ書類の提出、取得のためのお使いに行ったりもします。最近では、被相続人のお宅へ行き、宅内を捜索して資産価値のありそうな物品のチェックをするといった、通常の職業では経験できないような業務も担当しました。
このように、アトラスではアルバイトだからといって、簡単な業務や同じ業務だけをずっとするわけではなく、いわゆるパラリーガル的な立ち位置で、様々な業務を担当することとなります。
アトラス総合法律事務所での業務が司法試験に役立った点
短答式試験との関係
アトラス総合法律事務所は、一般民事事件を多く取り扱う法律事務所です。アトラスでは、建物明渡請求といった、司法試験でもよく出るような請求をする案件ももちろん扱いますが、中でも特に、相続、離婚といった分野を多く取り扱っています。
相続や離婚といった分野の案件を担当することは、司法試験の短答式試験の際に特に役に立ちました。多くの受験生にとって、家族法分野は手薄になりやすい部分です。また、受験生の多くは実際に自分自身が相続や離婚といった経験をしたことがないでしょうから、勉強する際もイメージが掴みにくく、苦手意識を持つ人が多いかと思います。
ですが、弊所で働くと日常的にこれらの分野に触れることになります。すると、相続の順位や代襲相続、遺留分侵害請求権などの家族法分野の知識は嫌でも身につくため、民法の短答式試験が有利になります。
私自身、ここで働き始めて以降は民法の短答式試験に対する苦手意識がなくなり、2回目以降の受験では、民法の短答式試験は毎回、数問しか間違えないレベルで得意になりました。
民法は他の短答科目よりも配点が高いため、ここで点数を多くとれることは他の受験生との関係で大きなアドバンテージとなります。
論文試験との関係
現場思考力
弊所の業務内容の部分でも触れた通り、弊所ではアルバイトの事務員も書面の作成をします。
そして、書面の作成にあたっては、まず弁護士とどういう方向性で書面を作成するかを一対一で話し合いながら検討します。その際には、考えられる法律構成、その適否、その構成を採用した場合に考えられる問題点などを話し合います。正確には、話し合うというよりも、弁護士から質問されたことにこちらが回答していくという、ロースクールでも採用されているソクラテスメソッドを行います。
予めある程度自分自身で事案を検討したうえで弁護士との話し合いに臨みますが、弁護士に即興で立て続けに質問されることになるため、自身では想定していなかった質問、司法試験の勉強で培った知識では対応できない質問がされることがかなりあります。
そうなった場合、弊所の弁護士は「分かりません」では許してくれず、何かしら自分で考えて回答をする必要があります。また、弁護士からのこのような即興の質問に対しては、基本的にこちらも即興で返さなければならないため、一人でじっくり考えたうえで結論を出すこともできません。そのため、自身の現在持っている知識、その問題に関係する条文や制度趣旨などを用いて、その場で考え、弁護士を納得させられる程度のそれらしい回答を導き出すことになります。
これは、司法試験の問題にも出てくる、いわゆる現場思考問題の処理と同様であると私は思っています。私は現場思考問題が苦手で、1度目の受験時に出題された現場思考問題には、まともに回答することができませんでした。ですが、弊所で働き、日常的に弁護士とこのようなやり取りをすることで、その場で考え、結論を導き出す力が養われたと思います。
実際、合格した令和6年度の会社法の問題などは、例年以上に現場思考系の問題の比重が大きく、未知の問題が多くありました(少なくとも私の使っていた問題集などでは取り上げていない論点でした。)が、それらしい理由付けと結論を出して回答することができたおかげで、悪くない点数を取れました。
答案作成能力
上述のようなやり取りを弁護士とし、方向性が決まったら、その方向性に沿って書面作成をしていきます。作成にあたっては、基本的に、最初に弁護士と決めた方向性に基づいて事務員が一から書面を作成することになります。そして、一旦自分自身で作成したら、今度はそれを弁護士にチェックしてもらい、修正を繰り返して完成させます。
論文試験で良い評価を得るために必要な能力の1つとしてたびたび聞くのが、読み手が理解しやすい文章を書くことです。私は、「読み手に誤解を与えず、一通りの意味にしか解釈できないような、誰が読んでも理解できる文章を書くように」という主旨のことを弁護士からの書面チェックの際によく言われました。そして、その点を意識しながら書面作成をしていく中で、次第に読み手が理解しやすい文章を書くコツを掴め、答案作成においてもそのコツを落とし込むことができるようになりました。
作成した書面をこのように弁護士にチェックしてもらうのは、答案を添削してもらうようなものだと私は思います。そのため、現役の弁護士から毎日のように書面をチェックしてもらえるアトラスの環境は、司法試験受験生にとっては非常に価値のある場だと思います。
付言
ちなみに、上述の話だけを聞くと、アトラスの弁護士が事務員に指示だけして書面作成をさせ、自分は楽をしているように誤解される方もいるかもしれませんので、アトラスの弁護士の沽券のために少し補足しておきます。
アトラスの弁護士は、当然のことながら、事務員に割り振っている案件以外にも多くの案件を独自に持っており、その案件処理の合間の時間を使って、私たち事務員と上述のやり取りをしています。また、このやり取りは事務員一人当たり、毎日平均して1時間程度は行われており、弁護士は日々の業務時間のかなりの部分を事務員との話し合いに充てています。
実際のところ、事務員とこのようなやり取りをせずに、弁護士の求める書面内容、作成の方向性のみを伝えて書面作成をさせた方が、案件処理としての作業効率は上がると思います。それにもかかわらず、あえてこのようなやり取りを経たうえで書面作成にあたらせるスタイルを採っているのは、実務を通した受験生指導の一環なのだと私は思っています。
4度目の受験を決意し、合格するまで
私は、自身の年齢や交際相手との将来のこと、経済的事情などから、司法試験を受験するのは3回までにしようと元々思っており、4回目を受験する気はありませんでした。そして、ラストチャンスと思いながら受けた3回目の試験1日目、私は高熱を出してしまい、公法系科目の問題がまともに読めないほどの体調不良に陥ってしまいました。
2日目以降は薬を飲むなどして、何とか最終日まで受け終えましたが、結果は1日目の論文の公法系科目で足切りをされ、不合格でした。2日目以降に受けた科目の成績は十分合格ラインに乗る成績だっただけに、体調不良という学力以外の部分に合否を左右され、非常に悔しい思いをしました。そして、ラストチャンスだと思っていた3回目に落ちたことで、もうこれ以上の受験はしないつもりでした。
ですが、もう受験をしないつもりである旨を所員や家族などに伝えると、「せっかくまだ受験できるチャンスが残っているのに諦めるのはもったいない」、「合格できるだけの実力は絶対にあるから、もう一回受験してみてはどうか」などの言葉をいただき、最後にもう一度だけ受験することを決意しました。そして、交際相手にも最後にもう一度だけ受験させてほしいと伝え、応援してもらえることになりました。
最後の一回ということで、模試も複数回受験したり、体調管理も徹底したりとやれるだけのことはして試験に臨もうと考え、そのために必要なお金も周りの人に相談して支援してもらうことにしました。
こうして、周りの人の応援や支えのおかげもあり、自分の中で決めた本当のラストチャンスで合格することができました。合格した時は、喜びもありましたが、同時に、応援してくれた人たちへの感謝の気持ちでいっぱいでした。すぐに、応援してくれていた人たちへ合格の報告をすると、みんな私の合格を自分のことのように喜んでくださいました。
複数回受験生へのアドバイス
おこがましいかもしれませんが、複数回受験の末に合格した私から、同じように合格できず悩んでいる方へ少しばかり助言です。
私が思うに、複数回受験生の方の多くは、知識不足が原因で落ちているわけではないと思います。点数を取るための答案の書き方が分かっていないだけです。
ですので、その方法を誰かから学び、自然と答案に反映できるようになることが合格に繋がると思います。少なくとも私はそうでした。
そのためには、誰かに答案を見てもらう機会を設けるのがよいです。合格した友人や司法試験予備校の答案添削講座を利用するのでもいいです。また、アトラスに入所すれば、現役の弁護士に答案を見てもらうこともできます。
いずれにしても、一人で黙々と今まで通りの勉強をしていても合格することは難しい可能性が高いです。逆に、答案の書き方のコツを知ることで、点数が飛躍的に伸びる可能性があります。
自分には才能がない、なんてことはありません。法科大学院を卒業し、司法試験受験資格を得ている時点でポテンシャルは十分にあります。あとは、合格に必要な正しい方向性の努力をするだけです。
最後に
複数回受験中は、同期が先に合格していってしまい取り残されたような孤独感、周りの同世代の人達が働いてお金を稼いでいる中、自分は何をやっているんだろうという焦燥感を覚えると思います。そして、思うように結果が出ず、「もう司法試験を受けるのをやめようか」と考えることもあるかと思います。私自身、このような気持ちから、受験中は何度も司法試験を諦めることが頭をよぎりました。
ですが、このような思いをしたうえで合格した私の立場から言いたいことは、自分の中で完全に諦めがつくまでは、司法試験を受け続けてほしいということです。
もしも、まだ受けるかどうかを悩む余地があるのであれば、ぜひとも受けてもらいたいです。悩む余地がある中で司法試験を諦めたら、この先ずっと司法試験のことが心に引っかかると思います。
長い人生の中でみれば、司法試験を5回受けきってもたったの5年程度のことでしかありません。5年間くらい、思う存分自分の夢に時間を費やしてもいいのではないでしょうか。
それに、苦労をして合格をつかみ取った人だからこそ、得られるものもあると思います。あなたが苦しみながら過ごしているその時間は決して無駄なものではなく、間違いなくあなたの糧になっています。
私は、周りの人の励ましがあったからここまで受験を続けることができました。一人だったら、間違いなく途中で諦めていました。
周りの人が私に再度受験する決意をさせてくれたように、この合格体験記が司法試験をもう諦めようかと思っている人にとって、あと一回受験してみようと奮起するきっかけになってくれれば幸いです。