アトラス総合法律事務所 特別顧問 弁護士の林正彦です。
ゴルフに潜む法律問題とフェアプレーについて、前編はホールインワン保険の不正請求でしたが、今回の後編はロストボール拾得の法的責任についてご説明いたします。是非ご一読いただき、皆様の参考になれば幸いです。
ロストボールを拾ってプレーする行為の刑事責任
次に、コース内でよくある「ロストボール」に関する問題です。
ティーショットを大きく曲げてしまい、林の中や深いラフにボールを探しに行ったとします。自分のボールは見つかりませんでしたが、代わりに状態の良い綺麗なブランド物のボール(ロストボール)が落ちていました。「ラッキー、誰かのロストボールだろう。自分のボールを失くしたし、これを使ってプレーを続けよう」などということは、誰もが一度は経験したり、目撃したりしたことがある光景かもしれません。
しかし、この行為は犯罪行為(窃盗罪等)に該当する可能性があります。
ロストボールは「誰の」ものか?
まず、他人が打ち込んで探すのを諦めた(放棄した)ロストボールの所有権はどうなるのでしょうか。プレイヤーがボールを探すのをやめてその場を立ち去った時点で、元の持ち主はボールの所有権を放棄した(あるいは占有を離れた)と考えられます。
しかし、だからといって「誰のものでもない無主物(むしゅぶつ)」になるわけではありません。ボールが落ちているのはゴルフ場の敷地内です。ゴルフ場の経営者・管理者は、コース内にあるすべての施設や設備、そして敷地内に放置された動産に対して、「施設管理権に基づく占有(事実上の支配)」を有しています。
実際に、ゴルフ場は定期的に専門業者を入れて池や林のロストボールを回収し、それを洗浄して「中古ボール」として販売することで利益を得ているケースが多々あります。つまり、ロストボールはゴルフ場にとって立派な「財産」なのです。
占有離脱物横領罪ではなく「窃盗罪」が成立する
他人の物を盗む犯罪には、大きく分けて「窃盗罪(刑法第235条)」と「占有離脱物横領罪(遺失物等横領罪・刑法第254条)」があります。
道端に落ちている誰の占有にも属していない財布を自分のものにした場合は「占有離脱物横領罪」となりますが、前述のとおり、ゴルフ場内のロストボールは「ゴルフ場管理者の占有下」にあります。
したがって、管理者の管理支配が及んでいる敷地内から無断でボールを持ち去ったり、自分の物として使用したりする行為は、他人の占有を侵害する行為として「窃盗罪(10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)」が成立するというのが法的な結論となります。
(ゴルフ場の外の公道などに飛んでいったボールを拾った場合は、占有離脱物横領罪になる可能性があります)。
「拾ってそのホールで使っただけ」でも犯罪か?
「ポケットに入れて家に持ち帰ったわけではない。拾ってそのホールで使っただけで、またコース内に置いてきたのなら、泥棒ではないのでは?」と反論する方がいるかもしれません。
刑法において窃盗罪が成立するためには、故意に加えて「不法領得の意思(ふほうりょうとくのいし)」が必要とされています。これは少し専門的な言葉ですが、「権利者を排除して、他人の物を自分の物として、その経済的用法に従って利用または処分する意思」を指します。他人の所有物(ゴルフ場の財産)であるボールを、あたかも自分のボールであるかのようにゴルフクラブで打ってプレーを続行する行為は、まさに「ボールの本来の用途(打って遊ぶこと)」に従って利用していることになります。
たとえ一時的な使用であっても、そのボールを打てば傷が付いて価値が下がったり、さらには紛失したりすることもあるため、不法領得の意思は十分に認められます。
ゴルフ場の池に入り込んで大量のロストボールを無断で回収・転売していた業者が窃盗罪で逮捕される事件は定期的に報道されています。こうした事案に比して、アマチュアゴルファーの「1球の拾い打ち」「1球の持ち帰り」で逮捕・起訴される可能性は実務上はかなり低いといえますが、法律上は違法行為(犯罪)であることを認識しておく必要があるでしょう。
さらに言えば、他人のボールを自分のものとして打つ行為は、ゴルフ規則(ルール)における「誤球」にも該当し、ペナルティの対象となります。法律違反である以前に、ゴルファーとしてのマナー・精神に反する行為と言えるでしょう。
まとめ:フェアプレーは法律とマナーの遵守から
今回は、ゴルフにまつわる「ホールインワン保険の不正請求」と「ロストボールの拾得」という2つのテーマについて解説しました。
ゴルフは自己申告のスポーツであるがゆえに、「誰も見ていないから」「みんなやっているから」という気の緩みが、時として取り返しのつかない法的トラブルを引き起こす引き金となります。
ゴルファーとしての誇りを持ち、ルールとマナー(そして法律)を守って楽しいゴルフライフをお送りください。
