アトラス総合法律事務所 特別顧問 弁護士の林正彦です。
テニスと法律(前編)に続き(後編)を書いて参ります。ぜひご一読ください。
最近のトピックス
スポーツ法務(スポーツ・ロー)の領域は、単なる事故の賠償問題にとどまらず、テクノロジーの発展とともに急速に拡大しています。ここでは、テニスを含むスポーツ界全体で近年注目されている法務トピックスを2つご紹介します。
AI・デジタル技術の導入に伴う法的課題
テニスの四大大会(グランドスラム)をはじめ、多くのプロツアーで「ホークアイ(Hawk-Eye)」などの自動線審システム(エレクトロニック・ライン・コール)が導入され、人間の線審が不在となる大会も増えています。
判定の正確性が増す一方で、システムの誤作動や通信エラーによって生じた不利益(勝敗の決定)に対する法的な不服申立てのスキームは、まだ完全に確立されていません。また、選手の生体データ(走行距離、心拍数、スイングスピードなど)をウェアラブル端末やカメラで取得・分析する技術が進んでいますが、これらの「スポーツデータ」は個人情報保護法やプライバシー権の問題と密接に絡みます。データの帰属主体や商業利用に関する取り決めは、今後のスポーツビジネスにおける重要な法的課題です。
スポーツ現場におけるハラスメントと「カスハラ」問題
かつては指導者から選手へのパワーハラスメントや体罰が社会問題化しましたが、近年では逆のベクトル、あるいは第三者からのハラスメントが法的紛争に発展しています。
カスタマーハラスメント(カスハラ)
スポーツクラブやスクールにおいて、一部の保護者や生徒からスタッフに対する暴言、過度な要求、SNSでの誹謗中傷が増加しています。スクール側は、スタッフを守るための安全配慮義務の観点から、毅然とした対応(退会処分の規定整備や警察への相談)をとる法的スキームの構築が求められています。
SNSでの誹謗中傷
プロ・アマ問わず、試合でミスをした選手に対するネット上の誹謗中傷が後を絶ちません。これに対しては、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)に基づく発信者情報開示請求や、名誉毀損・侮辱罪での刑事告訴など、法的な対抗措置を講じる選手や団体が増加しています。
おわりに|万一のトラブルに備えて
テニスをはじめとするスポーツは、生活を豊かにする素晴らしい文化です。しかし、予期せぬ事故やトラブルは、当事者の人生やスポーツライフを一変させてしまう可能性があります。
個人プレイヤーの方々は、万が一の加害事故に備えて「個人賠償責任保険」に加入しておくことをお勧めします(自動車保険や火災保険の特約として付帯していることも多いでしょう。)。
また、スポーツ施設やスクールの運営者においては、施設賠償責任保険への加入はもちろんのこと、入会時の会員規約(免責事項の範囲の妥当性)のリーガルチェックや、事故発生時のマニュアル整備など、事前のリスクマネジメントが不可欠です。
スポーツを好む皆さんが安全で快適な環境にてプレイができることを心から願っています。