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コラム

COLUMN
作成日:2022.08.19 最終更新日:2022.08.19

支払督促制度の活用方法

こんにちは。アトラス総合法律事務所の荻野です。
今回は支払督促という制度についてお話します。ここでは、支払督促とはどういう制度なのか、通常の裁判手続きと違ってどんなメリットがあるのかなどをお伝えしていこうと思います。

支払督促とは

支払督促とは、債権者が簡易・迅速に債務名義(債務者に強制執行をするために必要な文書)を取得して、給付訴訟によるのと同様の目的を達成するために設けられた債権回収制度です。
例えば、AさんがBさんからお金を借りたような場面において、約束の期間を過ぎたのにいつまで経ってもAさんがお金を返してくれない場合、通常、Bさんは裁判を起こして債務名義を取得し、強制執行によりAさんからお金を回収することとなります。これが、いわゆる通常訴訟と呼ばれる方法です。
しかし、みなさんもご存知の通り、裁判をするとなると多くの手間と時間がかかります。すると、お金を回収するために結局1年以上も費やしてしまった!なんてことも起こりえます。
そこで、通常訴訟におけるこのような時間のかかる手続きを省略し、短期間で裁判に勝訴したのと同様の効果を得て債権を回収するために存在するのが、先ほどお伝えした支払督促という手続きです。

支払督促の特徴、メリット・デメリット

特徴

対象となる請求

支払督促の特徴の一つとして、利用できる場面が限られている点があります。利用できる場面は、金銭の支払、その他の代替物、有価証券の引渡しを求めるという場面に限られています。金銭はもちろんお金という意味です。そして、有価証券は無記名小切手、無記名社債などのその個性が問題とならない財産的価値を表示する証券を意味します。
では、その他の代替物とは何でしょうか。この点、その他の代替物とは、特にその物の個性が問題とならない物をいいます。法的に言うと、種類債権というものです。(東京簡易裁判所に対して確認済み。)
例えば、単に「犬を一匹引渡せ」というような場合には、犬であればどんな犬種でも、はたまた成犬か子犬かも問わないため、個性が問題とならず、代替物にあたり支払督促の対象となります。他方で、「○○ペットショップにいる生後3か月の雄のシベリアンハスキーを引渡せ」というような場合には、あらゆる犬の中から特定の「その犬」が請求の対象となっているので、その物の個性が問題となります。すると、代替物にあたらず支払督促の対象とはなりません。
以上のように、支払督促の対象となるものは、金銭を含めいずれもその個性が問題とならない物に限られており、これらを対象として請求をする場合には支払督促が利用できます。
もっとも、実務上支払督促が利用されるのはほとんど金銭の支払いを求める場面であり、その他代替物の引渡しというような場面で利用されることは滅多にありません。

申立ての方法

申立てにあたっては、債務者の普通裁判籍の所在地(債務者の住所地)の簡易裁判所書記官に申立人作成の申立書を提出することで足ります(民事訴訟法382条1項)。ちなみに、訴額が140万円を超える場合でも、常に簡易裁判所書記官に申立てることとなります。
そして、申立てにあたっては通常訴訟と異なり、証拠を提出する必要はありません。また、申立後、申立人が裁判所へ行く必要もありませんし、裁判所が債務者側から話を聞くということもありません(民事訴訟法386条1項)。これは、簡易・迅速な判断を下すために、簡易裁判所書記官が申立人作成の書面のみに基づいて請求の適否を審査し、判断を行うこととされているからです。
また、申立てにあたっての手数料も通常の訴訟の半額で済むため、費用を抑えることが可能です。

債務者の対応

このように支払督促は債権者にとっては簡易な方法で行える都合のよい手続です。もっとも、いいことばかりでもありません。後述しますが、支払督促から強制執行がなされるまでの手続きの間で、債務者には支払督促という簡易な手続きに基づいて強制執行がされることを防ぐためのチャンスが与えられています。これを異議申立てといいます。この異議申立てをするにあたり、債務者はどんな理由で支払わないのかという、異議申立ての理由を表明する必要はありません。そして、異議申立てがなされると、支払督促の申立時にさかのぼって、通常訴訟の訴えの提起があったとみなされ、支払督促の手続きから通常訴訟に移行します(民事訴訟法395条)。

以上の支払督促の特徴を踏まえると、支払督促には以下のようなメリット・デメリットがあるといえます。

メリット

・債権者による申立書のみで判断されるため、証拠を提出する必要が無い
・裁判所への出頭が不要
・簡易

・迅速に債務名義を得ることができる
・手数料が通常の訴訟の半額で済む

デメリット

・支払督促では管轄が被告の住所地の簡易裁判所になるため、通常訴訟に移行した場合には被告の住所地に管轄を有する裁判所で裁判を行わなければならなくなる
・債務者が容易に異議申立てをできてしまうため通常訴訟に移行するリスクが高く、移行した場合には当初から訴訟を提起していた場合よりも債務名義を得るまでに時間がかかってしまう

令和2年度の司法統計によると、支払督促の発付がされた債務者が約32万人いる中で、異議申立てが最後までされず、支払督促手続きが完了して強制執行が可能な状態まで至った債務者数は約11万人となっています。つまり、約3分の2の債務者が異議申立てをしており、約3分の1の債務者についてしか最終的な強制執行段階まで進めていないということとなります。
参照:令和2年度における支払督促が発付された債務者数及び支払督促に対する結果の司法統計

支払督促の流れ

申立て

債務者の住所を管轄する裁判所へ申立書を提出します。

支払督促の発付

簡易裁判所書記官が申立書を審査し、請求に理由があると認められ、記載にも不備が無ければ支払督促が出されます。

債務者への送達・債権者への通知

簡易裁判所書記官の審査をパスすると、債務者へ支払督促が送られます。同時に、債権者には裁判所から、支払督促を発付しましたよという通知が届きます。

債務者の受領・異議申立て

債務者のもとに支払督促が届き、債務者がこれを受領すると、受領した日から二週間の異議申立て期間がスタートします。この期間内に債務者が異議申立てをしない場合、督促手続きは続行し、次の段階に進みます。
反対に、債務者が期間内に適切に異議申立てを行うと、支払督促は効力を失って督促手続きが終了します(民事訴訟法390条)。そして、この督促手続きの終了に伴って、通常訴訟に移行します(民事訴訟法395条)。

仮執行宣言の申立て

債務者が送達を受けてから二週間以内に異議申立てをしなかった場合、債権者は仮執行宣言の申立てという次の段階に進めます。仮執行宣言とは、確定的に債権者の債務者に対する請求が認められたわけでは無いけれども、その結論が出るより前に債権者による強制執行を可能とするというものです。

仮執行宣言の発付

債権者から簡易裁判所書記官に対して仮執行宣言の申立てがされ、申立書にも不備が無ければ、仮執行宣言が発付されます。

仮執行宣言付支払督促の送達と強制執行

仮執行宣言が発付されると、今度は仮執行宣言付支払督促というものが債務者に送達されます。ここでも、債務者には送達後二週間の異議申立て期間が与えられます。ここで、債務者がこの期間内に異議申立てをしなかった場合、債権者は仮執行宣言付支払督促を債務名義として強制執行をすることができます。
反対に、この期間内に債務者によって適切に異議申立てが行われると、やはり通常訴訟に移行することとなってしまいます。
もっとも、この段階で異議申立てが行われた場合であっても、強制執行をすることは可能です。仮執行宣言付支払督促に対する債務者の異議申立ての効果は、支払督促の確定を遮断するにすぎず、仮執行宣言の執行力を失わせるものではないからです。そのため、仮執行宣言付支払督促が債務者に送達されれば債権者は強制執行ができます。
異議申立てをした債務者がこの強制執行を回避するには、強制執行の一時停止の申立てをする必要があります。

支払督促が向いているケース

支払督促は、対象物などの要件を満たしていれば行うことが可能ですが、支払督促が利用できるからと言って、どんな場合でもこれを利用すべきかというと、そうではありません。支払督促には、向いているケースと向いていないケースがあります。
向いているケースは、債務者が債権者の権利主張自体は争わないが、支払いを怠っているようなケースです。他方、向いていないケースは、債務者が債権者の権利主張自体を争っているようなケースです。
このように分かれる理由には、支払督促における債務者からの「異議申立て」が関係してきます。この点、前述した通り、支払督促は債務者から異議申立てがされたらその効力を失い、通常訴訟に移行します。ここで、仮に債務者が「そんな債務は存在しない!」「既に払ったはずだ!」などと考えている場合、当然異議申立てがされるため、通常訴訟に移行します。他方、債務者においてもその債務の存在は認めているが、お金が無いなどの理由で支払いを怠っているような場合、債務者は異議申立てをあまりしません。それは、仮にここで通常訴訟に移行したとしても、債務者は債権の存在を争って勝てるだけの見込みがないからです。

まとめ

今回は、支払督促の特徴や手続きの流れを解説しました。
このようにメリット・デメリットを見てみると、こんな簡単に異議申立てされてしまうのでは、支払督促なんてやらずに最初から訴訟を提起しておく方がいいのではないかとも思われそうです。
確かに、このように簡単に異議申立てができてしまうため、支払督促が上手くいくケースはそこまで多くはありません。前掲の令和2年度における司法統計からも、その成功率の低さがうかがえます。もっとも、債権者からの支払督促を受け取ったことで怖くなった債務者が、途中で任意に支払いに応じたなどの理由で、債権者が支払督促手続きを続ける必要がなくなり、取下げをしたというケースもあると思います。そのため、必ずしも成功率が3分の1程度しかないというわけではないと思います。
また、仮に成功率が3分の1だとしても、裏を返せば、簡単に異議申立てができるにもかかわらず、3分の1の債務者は何もせずに支払督促による強制執行が可能な状態に陥っているということです。そうだとすると、債務者が異議申立てをしない可能性にかけて、とりあえず一度支払督促手続きを利用するのも悪くない手だと私は思います。ここで仮に通常訴訟に移行したとしても、訴訟の手数料は支払督促の時に払ったお金を流用できるため、その差額分だけ改めて払い込めば済みますし、金銭的に特に損することはありません。損があるとすれば、支払督促に費やした労力が無駄になるといった点です。
すぐに債務名義が必要というわけではないのならば、一度支払督促を出して相手の様子を見て、その後の相手の反応に応じて手続きを進めて行くというのも一つの手かもしれません。

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