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作成日:2021.09.17 最終更新日:2021.09.21

制限行為能力者制度4種の違い

東京都千代田区神田にあるアトラス総合法律事務所の原澤恭平です。

本コラムでは、「制限行為能力者制度」について説明していこうと思います。

まずは、制限行為能力者制度の概要を説明し、その後で個々の制限行為能力者について説明していこうと思います。

「制限行為能力者」とは、その名の通り、行為能力が制限されている人のことを言います。
これだけではほとんど説明していないに等しいですので、もう少し掘り下げてみます。

まず、行為能力とは、一般に、単独で完全な法律行為をなしうる能力といわれます。逆に言えば、完全な法律行為をするためには、行為能力が必要ということになります。

例えば、コンビニで何かを買ったとしましょう。これも立派な法律行為です。(売買契約、民法555条)つまり、コンビニで何かを買うためにも行為能力は必要ということになります。そして、制限行為能力者がした法律行為は、取り消すことができます。

この行為能力は、自分のした行為の意味が理解できているかということでもあり、行為者保護のために必要とされています。自分の行う行為がどのような意味を持つのかきちんと認識できていない場合、悪い人によって不利益を被るかもしれません。

行為能力がないというのは、ルールもわからずゲームに参加するようなものだと説明されることもあります。ゲームの参加者の中には、ルールをわからないのをいいことに不公平なことをしてくる人もいるでしょう。これを避けるために、最低限ルールは知っておきましょうというのが行為能力ということになります。

他方で、行為者保護を貫徹するのであれば、一切の行為を禁止するのが一番とも思えます。しかしこれでは、あまりにも行為者の自己決定権が害されるでしょう。

そこで、行為者本人の自己決定権の尊重と行為者保護の調和を目指したのが行為能力者制度ということになります。

また、似た概念として、「意思能力」というものがあります。意思能力とは、有効に意思表示をする能力のことであり、これを欠く状態でなされた法律行為は無効とされます。(民法3条の2)

行為能力に話を戻しましょう。前述のように、行為能力は完全な法律行為をするための前提であるものの、世の中の人全員が有しているわけではありません。この、行為能力が完全ではない人、つまり制限されている人が、今後説明していく制限行為能力者ということになります。

民法で定められているものとして、未成年者(4条)、成年被後見人(7条)、被保佐人(11条)、被補助人(15条)といったものがあります。

以下で一つずつ説明していこうと思います。

成年後見制度

「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」は一定の範囲の者(本人、配偶者等)の請求により、家庭裁判所で後見開始の審判を受けることができます。(民法7条)そして、後見開始の審判を受けた者は成年被後見人となります。(8条)

事理弁識能力を欠く常況にある者とは、具体的には、強度の精神障害者等を指し、意思能力さえない者ということになります。

意思能力がない場合、契約は当然に無効となるはず(3条)です。もっとも、この証明は無効を求める側がしなければならず、それは必ずしも容易ではありません。証明ができなかった場合、その効果を主張することはできないため、結果として制限行為能力者を保護することができません。

そこで、この制度が大きな意味を持ちます。後見開始の審判がなされると、専用の登記ファイルに記録されるため、その証明は比較的に容易になります。そのため、理論上は制限行為能力者保護ができるということになります。

成年被後見人は「制限」行為能力者である以上、日常生活に何らかの制限がなされています。成年被後見人には、成年後見人が選任され、後見人が被後見人の財産を管理し、かつ財産上の法律行為を代表します(859条1項)。そして、成年被後見人がした行為は一部の例外を除いて取り消すことができます。(9条本文)

この例外に当たるのが、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」(9条但書)です。被後見人の自己決定権を尊重する趣旨の現れであって、日常生活上必要な行為であれば単独で有効な契約を締結することができます。

また、結婚(738条)、離婚(764条)、遺言(962条)等の身分行為も例外の一つに当たります。これも本人の意思を尊重する趣旨です。

つまり、本人の意思の尊重の要請が特に強いとされる一定の例外を除いて、成年被後見人は行為能力が制限されているということになります。

成年被後見人が単独でした行為は一部を除き取り消すことができます。では、完全に単独で行ったといえない場合はどうなるのでしょうか。

例えば、事前に後見人から同意が与えられていた場合について考えてみます。
この場合、後見人が同意している以上有効に契約を成立させてもいいように感じます。しかし、一般にそのようには考えられていません。

前述のように成年被後見人は意思能力を欠いている以上、やはり同意があっても有効な契約を締結することはできません。仮に同意があったとしても、事理弁識能力を欠く常況にある人が同意した通りの契約を結んでくる可能性は高くありません。そうだとすると、同意したところで、おかしな契約が結ばれる可能性が高い以上、被後見人保護のためには有効とすべきではないということになります。

では、事後的な追認があった場合はどうでしょうか。
成年被後見人が締結してしまった本来は取り消されうる契約であっても、後見人の追認があれば有効なものとなります。代理権を有する後見人が認めたのであればいいということですね。

また、この追認は本人、つまり被後見人であってもすることができます。しかし、この場合は能力を回復し、取消権を有することを知った後でなければなりません。(124条1項)被後見人が能力を回復しないうちに追認しても、被後見人保護の観点からは意味がないことは当然ですから、これは当たり前のことかもしれないですね。

保佐制度

「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」が、家庭裁判所によって保佐開始の審判を受けた場合、被保佐人となります。(民法11条本文、12条)

これは、意思能力はあるものの、財産管理に関する判断能力が著しく低い場合を言います。前回の成年被後見人と比べると、ある程度事理弁識能力があることになりますね。そのため、被保佐人は行為の制限が成年被後見人と比べて緩やかになっています。

被保佐人も制限行為能力者である以上、もちろん一部の行為に制限がされています。前述のように被保佐人は、財産管理に関する判断能力が著しく低い場合をいいます。そうだとすれば、このような被保佐人を保護するためにはどのような行為についての制限を加えればいいでしょうか。

民法上は、財産的な行為に制限をかければよいと考えられています。

ここで、民法13条1項を見てみてください。保佐人の同意がなければできない行為が掲げられています。いくつかありますが、ざっくりと言えば、重要な財産の処分行為等ということになります。

また、それ以外の行為であっても、同意を得なければいけない場合もあります。(13条2項本文)

そして、同意を要する行為について同意またはこれに代わる許可なくなされた場合は、取り消すことができます。(13条4項、120条1項)もっとも、追認後は取り消せなくなりますが。(122条)

他方で、被保佐人にも単独で有効にできる行為はあります。

まずは、上記の同意が必要とされていない行為です。同意については、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所が同意に代わる許可を与えることもできます。(13条3項)

また、9条但書に規定されている行為、つまり、日用品の購入その他日常生活に関する行為です。(13条1項但書柱書)また、遺言(962条)も可能です。

ここまで、被保佐人について説明してきましたが、ここからは保佐人について説明していきます。

まず、保佐人は原則として同意権(追認権や取消権もありますが)を有するだけであって、被保佐人の行為についての代理権がありません。特定の法律行為についての代理権は、家庭裁判所の審判によって付与されます。(876条の4第1項)つまり、保佐人といえど勝手に被保佐人の代理人として法律行為をすることはできないということになります。

また、代理権が付与された場合、被保佐人に重大な利害が生じるため、本人以外の者の請求によってこの審判をする場合は、本人の同意が必要とされます。(876条の4第2項)

補助制度

「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」が家庭裁判所による補助開始の審判を受けた場合、被補助人となります。(民法15条1項本文、16条、876条の6)

これまで説明した成年被後見人(事理を弁識する能力を欠く常況)や被保佐人(事理を弁識する能力を著しく欠く)と比べると、本人には一定の判断能力が残されていることがわかりますね。
そのため、補助制度では、本人の自己決定権の尊重の要請がより強くなるということになります。この視点が補助制度を理解するうえでとても大切になってきます。

例えば、本人以外の請求によって補助開始の審判がなされる場合、本人による同意が必要となります。(15条2項)補助開始の審判がなされると一定の行為に制限が付くため、その制度の利用に関しての本人の自己決定を尊重しようということではないでしょうか。

では、被補助人には生活上どんな制約があるのでしょうか。これについては、前回の被保佐人と同じように、特定の法律行為について同意を要することになります。そして、同意又はこれに代わる許可なくなされた行為は取り消すことができます。(17条4項)しかし、その態様が被保佐人とは異なります。

まず、同意についてですが、特定の法律行為について同意を要する状態になるためには、「同意をしなければならない旨の審判」を受ける必要があります。(17条1項本文)
つまり、当然に補助人に同意権が発生するわけではないということになります。興味のある方は、13条との規定の仕方と比べてみてください。

また、同意を得なければならない行為の範囲にも違いがあります。前述の「同意をしなければならない旨の審判」によって同意を必要とすることができるのは、13条1項に規定する行為の一部に限られています。(17条1項但書)

13条1項に規定する行為とは、被保佐人が同意を得なければならない行為のことです。つまり、単独でなしうる行為が被保佐人より広く認められているということですね。

被補助人であっても、日用品その他日常生活に関する行為については単独で有効に法律行為をできますし、また、遺言については、被補助人であっても単独で行うことができます。(962条)

これまでは、補助される側について説明してきましたが、ここからは補助する側、つまり、補助人側に視点を移してみましょう。

補助人は、前述のように家庭裁判所の審判により、被補助人の特定の法律行為について同意をすることができるようになります。そして、被補助人の行為について取り消したり追認したりすることができるようになります。(120条1項、124条1項)
また、家庭裁判所の審判によって特定の法律行為についての代理権を付与されることがあります。(876条の9第1項)もっとも、ここについても本人の意思を尊重する趣旨が現れています。(876条の9第2項、876条の4第2項・3項)

未成年

民法では、「年齢20歳をもって成年とする。」(4条)と規定されています。つまり、未成年者とは、20歳未満の人ということですね。

もっとも、未成年者であっても、婚姻によって成年擬制がなされます。(753条)これは、成年として扱わないと、独立の家庭を営むことが困難になるという配慮からの扱いです。

未成年者には、法定代理人が付きます。この法定代理人は、第一次的には親権者がなり、親権者がいない場合などには後見人が選任されます。(838条1号)

親権者は基本的には父母です。(818条1項)したがって、父母が第一次的には法定代理人になるということになります。

未成年者は法律行為の際に法定代理人の同意が必要になります。(5条1項本文)
そして、同意なくしてなされた法律行為は、取り消すことができます。(5条2項)これは、制限行為能力者保護のためですね。

もっとも、これには例外があります。以下、その例外について説明していきます。

まず、次の事例を考えてみましょう。田舎のおばあちゃんの家に行ったとき、おばあちゃんがかわいい孫(未成年)のためにゲームをプレゼントしたとしましょう。これは、基本的に贈与契約(549条)にあたります。贈与契約も契約である以上、当事者間の合意によって成立します。そのため、受け取る側も有効な意思表示をする必要があります。では、孫は、単独で有効にこの意思表示ができないのでしょうか。

これは民法によって規定されている例外の一つであって、法定代理人の同意は不要です。「単に権利を得、または義務を免れる法律行為」(5条1項但書)にあたります。したがって、単独で有効な意思表示をすることが可能です。
この場合、未成年者に利益はあっても不利益はありません。そうだとすれば、行為能力を制限する必要はありませんよね。

次に、小学生の子が遠足のおやつを買いに来た場合を考えてみましょう。小学生は、当然未成年者であって、この小学生は、売買契約(555条を)締結しようとしています。この場合、未成年者は有効な法律行為ができないため、店側としては取り消されるリスクを負わなくてはならないのでしょうか。

この場合も、民法5条3項に例外として規定されています。この小学生の持ってきたお金が、遠足のおやつ用に親などからもらったものであれば「法定代理人が目的を定めて処分を許した財産」に、小学生のお小遣いであれば「目的を定めないで処分を許した財産」にあたります。したがって、今回の小学生は単独で有効に遠足のおやつを買うことができるということになります。

そのほかにも、営業を許された未成年者は、その営業に関しては行為能力の制限がなくなるという例外もあります。(6条1項)

また、仮に取り消しうる法律行為であっても、法定代理人等の追認があれば、有効な法律行為として確定します。(122条、120条1項)取り消しうる行為であっても、結果的に未成年者の不利益にならなければ別によいということですね。

ちなみに、本コラム作成時には、成年は「20歳」以上ですが、法改正により令和4年4月1日から施行される法律では、成年は「18歳」とされています。

以上で制限行為能力者制度についての説明を終了します。お読みいただきありがとうございました。

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