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コラム

COLUMN
作成日:2021.10.29 最終更新日:2023.03.28

相続放棄の要件と手続き

相続の放棄

意義

相続の放棄(相続放棄)とは、相続の開始による効果を拒否することを言います。相続の効果は、一般に包括承継と言われ、被相続人の権利義務が全面的に相続人に帰属することになります。この効果を拒否することが「相続放棄」です。

メリット・デメリット

 ◆メリット
 ・被相続人の負債(借金など)を相続しなくてよくなる
 ・相続人でなくなるため、遺産分割に関わる親族間のもめごとに関わらなくてよくなる

 ◆デメリット
 ・被相続人の積極財産(不動産など)も相続できなくなる
 ・基本的に撤回や取消しはできない
 ・新たな相続人が発生し、そこでトラブルが起こる可能性がある

相続放棄の手続き

家庭裁判所に対する申述

相続放棄は、相続を放棄する旨を家庭裁判所に対して申述することによってなされます(民法938条)。そして、相続放棄が認められると、その者は「初めから相続人とならなかったものとみな」されます。つまり、相続によって発生する効果を拒否することができます。

裁判所に対して相続放棄の申述をする際には、申述書だけではなく戸籍謄本等の添付書類を準備する必要があります。これらの書類の収集は、個人でも行うことができますが、相続人の属性によっては多数の書類が必要となる場合があります。また、戸籍が遠方に存在する場合には、郵送でのやり取りとなるため、費用や時間が予想以上に必要となる可能性もあります。

また、そもそも相続放棄をするか否かを判断するために、被相続人の相続財産を調査することが一般的です。預金口座や証券口座、不動産などを調査することになりますが、場合によっては調査に多くの費用や時間を要することもあります。

後述のように、相続放棄には期間制限がありますので、必要な手続きを迅速にかつ正確に行うことが大切です。

相続放棄の効果

相続放棄が認められると、申述をした相続人は、その相続に関して初めから相続人でなかったものとみなされます(939条)。また、その結果として、同順位の他の相続人や次順位の相続人に対しても影響が及ぶことになります。

例えば、被相続人はA、相続人はAの子であるBとCのみであった場合を想定してください。この場合、BCは同順位の相続人ですので法定相続分は1:1です。しかし、このときBが相続放棄をすると、Bは初めから相続人でなかったということになります。その結果として、相続人はCのみとみなされ、CがAの権利義務をすべて承継することになります。

また、上記の事案でBCがともに相続放棄をしたとします。この場合、第一順位の相続人がいなくなるため、次順位の相続人(直系尊属)が相続人です。この事案では、Aの両親DEが存命であれば、この二人が相続人となります。

相続人の順位

相続が発生した場合、誰が相続人となるかについては民法に規定があります。(887条、889条、890条)

これらの規定によると、まず、配偶者は常に相続人です。他方で、被相続人の子や親といったいわゆる血族相続人は、以下の順位によって相続人となります。

 ①被相続人の子(とその代襲相続人)

 ②直系尊属

 ③兄弟姉妹(とその代襲相続人)

 ちなみに、どの順位の血族相続人が相続人となるかによって、法定相続分も異なることになります。(900条)

熟慮期間

相続放棄は相続から発生する法的効果に大きな影響を及ぼすものです。そのため、無制限に認められるわけではありません。

相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」になされなければなりません(915条1項本文)。この期間を一般に「熟慮期間」と言います。
なお、この期間については、「家庭裁判所において伸長することができる」(同項ただし書き)と規定されており、3か月でないケースもあります。

期間制限がある場合、重要なのはその起算点がいつからなのかということです。

相続放棄についての起算点、つまり、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り、かつ、そのために自己が相続人となったことを覚知した時を指すとされています。(大決大正15年8月3日民集5巻679頁)

法定単純承認

民法には、「法定単純承認」という事由が規定されています(921条各号)。これらは、特定の事由があった場合には単純承認があったものとみなすという規定です。つまり、法定単純承認が認められてしまった場合には、相続放棄ができないということになります。

法定単純承認の事由は以下のとおりです。

1 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2 相続人が第915条1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

このうち、1号の事由に関しては、相続人が自己のために相続が開始した事実を知り又は確実に予想しながら、相続財産を処分した場合でなければ「処分したとき」には当たらないとされています。(最一小判昭和42年4月27日民集21巻3号741頁)

例外的な相続放棄

熟慮期間の起算点

熟慮期間の起算点については、先程説明しました。この考え方に従うと、①相続の開始と②自己が相続人となったことを覚知した時から熟慮期間が進行することになります。

しかし、これでは①と②については覚知していたが、熟慮期間経過後に多額の負債の存在を知った場合には、相続放棄ができなくなってしまうのではないかという問題があります。

この点に関しては、「相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である」という判断をした裁判例があります。(最二小判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)

この判断は、熟慮期間の起算点に関して例外を認めたものであると言えますが、この例外要件を充足するのは容易なことではありません。

相続放棄の撤回及び取消し

相続放棄は撤回することができません(919条1項)。これは、熟慮期間内であっても変わることはありません。そのため、相続放棄をする際にはよく考えてから行う必要があるということになります。
他方で、民法総則及び親族法の規定により相続放棄を取り消すことは可能です(919条2項)。例えば、制限行為能力者の行為による取消しや錯誤取消しといったものが想定されます。

弁護士に頼るメリット

相続放棄の申述は、相続人個人でも行うことは可能です。

しかし、財産調査や必要書類の収集など、相続人が個人で正確に行うには多大な労力を要するものもあります。また、申述には期間制限がありますので、面倒になって後回しにしている間にうっかり期間を徒過してしまうというケースも想定できます。

放棄ができなくなってしまうと、被相続人に多額の債務があった場合、それを承継しなければいけなくなってしまいます。

こういった事態を避けるために、弁護士に依頼することをお勧めします。

弁護士に一連の手続きを依頼すれば、資料収集から申述書の作成まで相続人が自分で行う必要はなくなります。また、被相続人の債権者からの連絡対応や、万が一法律的なトラブルが発生してしまった場合にも、安心して対応を任せることができます。

限定承認

相続放棄とは異なりますが、相続に関係する制度として「限定承認」というものがあるので、簡単に説明します。

限定承認とは、相続によって得た財産の限度で被相続人の債務等を承継する相続の方法になります。相続放棄と異なり、相続自体はすることになるので、不動産などを引き継ぐことができます。

もっとも、相続放棄は相続人単独で可能であるのに対し、限定承認の申述は相続人全員で行わなければなりません。そのため、相続人が複数いる場合、限定承認に同意しない相続人や関係性があまりよくない相続人がいる場合、この手続きを行うことが非常に困難となってしまいます。

また、限定承認の場合、熟慮期間内に財産目録を作成する必要がありますし、これ以外にも面倒な手続きが多くあります。

そのため、限定承認はあまり利用されていないようです。

おわりに

相続は人生でそう何度も経験するものではありません。また、親戚等の死亡直後に、冷静になって手続きを行うことは大変なことだと思います。

しかし、相続放棄には時間との戦いという側面もあります。相続放棄を検討している場合には、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。

 

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