はじめに
みなさんは、裁判所から何か郵便物が届いたことがありますか。
封筒を開けてみたが、身に覚えのない内容だったので無視してしまった、身に覚えのある内容だったが怖いから放置してしまった、というように何らの対処もしないでいると、知らず知らずのうちに数百万円の借金を背負っていることになってしまうなど、大変なことになる可能性があります。一体どのような理屈で、そのような不条理な事態が生じてしまうのか、不思議に思われるかも知れません。
そこで、今回は裁判所から届く郵便物の中にはどのような書面が入っているのか、また、それを放置することのリスクについてお話ししようと思います。
裁判所から郵便物が届くということはあまりないことですが、誰にでも起こる可能性のあることです。そのため、裁判所から郵便物が届いたことがないという方も、もし自分のところに届いたらという想像をしながら読んでいただければ幸いです。
反対に、今まさに裁判所から郵便物が届いているという方は、直ちに中身を確認するようにしてください。
何かしら書類の題名(タイトル)が書かれているはずですので、それを確認して、自分に届いた書面が、以下に説明する書面の中のどれに該当するかをチェックしましょう。
放置していると危険な郵便物
裁判所から届く書面にはどのようなものがあるのでしょうか。以下では、裁判所から届く書面のうち、受け取ったまま放置していると危険なものを数種類ピックアップして、どういう時にその書面が届くのか、そして、それを無視しているとどうなってしまうのかを事例と共に説明していこうと思います。
支払督促
(1)支払督促が届くのはどのようなときか
支払督促が届くのは、主にあなたが誰かから金銭的な請求をされている場合です。支払督促は、消費者金融への返済が遅れていたり、クレジットカードの支払いを滞納していたりする場合に用いられることが多いです。
具体例を挙げてみてみましょう。
Aさんは、消費者金融Bから100万円を借りたところ、返済ができなくなってしまいました。返済期日を過ぎると、Bから電話がかかってきたり督促状が届いたりするようになりました。ですが、とても返せる金額ではなかったことから、Aさんはこれらを無視していました。
Aさんと連絡が取れず、返済の見込みがないと判断したBは、Aさんを被告として簡易裁判所に支払督促の申立てをしました。
このような金銭の支払いを請求される場合、後述する訴状が届くという可能性もありますが、大抵の場合は簡易裁判所から「支払督促」という書面が届くことになります。
このような場面において支払督促が用いられることが多いのは、支払督促という制度の特徴が理由です。
支払督促とは、債権者が簡易的な方法により債権の回収を図ることを目的とした債権回収制度であり、簡単に言うと、裁判をしたのと同様の効果を、簡略化した手続により得られるというものです。
もっとも、簡易・迅速な債権回収を目的とした制度であることから、裁判の時のように裁判所へ出席する必要はありません。
このような手続きの簡易・迅速さから、多数の債務者を相手にする必要のある消費者金融やクレジットカード会社に利用されることが多いです。
(2)「督促状」と「支払督促」
この「支払督促」という名前から、「督促状」(返済を催促する手紙)に似たようなものだと思ってしまう方がいますが、その内容は上記の通り全く違います。勘違いして放置してしまわないように気を付けましょう。
もっとも、「支払督促」と「督促状」には、配達のされ方に決定的な違いがあるため、届いていることに気付かずに放置してしまった、ということはまず起こりません。というのも、支払督促は裁判と同様の効力を生じさせる強力なものであり、渡し間違いがあってはならないことから、特別送達という郵便配達員からの手渡しによる方法で届けらます。そのため、あまり郵便受けを確認しないという人でも、郵便受けを確認していなかったせいで支払督促が届いていたことに気づけなかった、というようなことが起きる心配はありません。
また、封筒にも○○簡易裁判所という記載があるため、普段届く督促状とは何か違うということがわかるかと思います。
(3)支払督促を無視した場合
支払督促を無視すると、どうなってしまうでしょうか。
支払督促が届いた以降の詳しい手続きの流れは、「支払督促制度の活用方法」に記載しているため、ここでは詳細な説明は省きますが、興味がある方はこちらのコラムもご覧ください。
まず、支払督促を受け取ると、その受領日から二週間の異議申立て期間が開始します。異議申立てとは、その請求に納得がいかないという意思を裁判所へ主張することです。
そして、Aさんがこの期間内に異議申立てをしなかった場合(放置をしていた場合)、Bは仮執行宣言の申立てをすることができるようになります。仮執行宣言の申立てが認められ、仮執行宣言が発付されると、Aさんのもとに今度は仮執行宣言付支払督促というものが届きます。この段階まで来ると、消費者金融BはAさんに対して強制執行をすることができます。
どういうことかよくわからないかもしれませんが、わかりやすくいうと、Aさんが消費者金融Bからの強制執行を回避するためには、基本的に最初の支払督促を受け取ってから二週間以内に異議申立てをしなければならない、ということです。ここで異議申立てをしないと、裁判所に債権者の言い分が認められ、近い将来、強制執行がされてしまいます。
異議申立ての方法は、同封されている「督促異議申立書」を裁判所に提出することで可能です。ですが、異議申立て期間は二週間と短く、うっかりしているとすぐに過ぎてしまうので、受け取ったらすぐに中身を確認して、適切に対処しましょう。
訴状
(1)訴状が届くのはどのようなときか
訴状が届くのは、あなたが誰かに被告として訴えられた場合です。分かりやすくいうと、誰かがあなたに対して何かしらの要求をするために裁判所に願い出た、という状況です。
訴状が届くケースを具体例を挙げて説明します。
Xさんは、友人のYさんから、1年後に返すという約束で200万円を借りました。
Yさんは1年後にXさんがちゃんと返してくれるのか心配だったので、Xさんに200万円を貸す際に、Xさんの弟のZさんにXさんの連帯保証人になってもらっていました。
1年後、YさんがXさんに200万円を返すように何度求めてもXさんは全く返そうとしません。
そこで、困ったYさんは弁護士に相談し、連帯保証人のZさんを被告として裁判所に訴えました(訴える人を「原告」、原告から訴えられる人を「被告」といいます。)
Yさん(及び弁護士)は、裁判所に訴える際、訴える内容(誰に何を請求するのか等)を記載した「訴状」という書面を、裁判所に提出します。このとき、裁判所分と相手方のZさん分の計2通を提出します。
そして、この訴状を受け取った裁判所は、裁判所分は保管し、Zさん分を、支払督促の時と同様に「特別送達」という厳格な方法でZさんに郵送します。この書面は、基本的に裁判所の茶封筒に入っていて、「〇〇裁判所」や「特別送達」という文字が入っています。そして、郵便局の人が、原則として本人(Zさん)に手渡ししてサインをもらいます。
Zさんに届いた裁判所からの書類の中には、Yさん(及び弁護士)が作成した訴状とともに、「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告書」、「答弁書」、「最初にお読みください」と書かれた書類などが入っています。訴状以外に同封されている書類についても、簡単に説明します。
まず、「答弁書」とは、原告の請求に対するあなたの考えを述べることのできる書面です。原告の請求は○○だから間違っている、などのあなたの主張はこの書面に書くことになります。
次に、「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告書」とは、口頭弁論期日の日時と場所、答弁書の提出期限が記載された書面です。そして、そこには、あなたが裁判手続きとの関係で今後しなければならないことが書かれています。
最後に、「最初にお読みください」という書面は、あなたが今どういう状況に置かれているのか、今後何をしなければならないのか、どこに連絡をして誰を頼ればいいのかといった様々な情報が記載されています。言ってしまえば、裁判を起こされた人のための手引書です。
このように裁判所としても、法律や裁判手続きに詳しくない方が、これらの事柄について詳しくないという理由で一方的に敗訴となってしまわないよう、色々対策はしてくれています。
ただ、これら裁判所のこのような配慮も郵便物を開けてくれなければ無意味に終わってしまいます。そのため、冒頭に述べたように裁判所から届いた郵便物は受け取ったらすぐに開けるようにしましょう。
訴状に同封されているこれら書類の説明から、Zさんは、自身がYさんから訴えられたことを知ることになります。そして、自分ひとりで対応する自信がなければ、上記の「最初にお読みください」に書かれている窓口に連絡してするか、自身で弁護士を探して、弁護士に対応を依頼することになります。
(2)訴状を無視した場合
訴状が届いたにもかかわらずなんらの対応もしないでいると、一方的に原告の主張が認められてしまい、最終的にあなたの敗訴が確定してしまいます。裁判に参加していないのに、原告の言い分だけで負けが決まってしまうなんてありなのか、と思うかもしれませんが、法律上はそのように決まっているのです。そして、このことは、前述した訴状の同封物である「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告書」や「最初にお読みください」の書面にも書かれています。
では、どのような理屈でこのような事態が生じてしまうのでしょうか。簡単に説明してみます。
まず、民事訴訟法159条3項により、裁判の期日に出頭しない場合、出頭しなかった人は、その相手方の主張を自白した(=認めた)ものとして取り扱われます。そして、自白した事実は、証明する必要がありません(民事訴訟法179条)。これはどういうことかというと、本件でYさんは、YがXにお金を貸す契約を締結したことなどを立証しないと請求が認められないところ、自白が成立する場合にはこれらの立証をしなくてもよくなってしまうのです。
そして、Yさんの主張がそのまますべて認められる結果、この裁判において当事者間で争いとなる点はないと裁判所に判断されます。裁判所は当事者間に争いがある場合にどちらの主張が正当かを判断するための場ですので、争いがないのであれば当然、判決が下され裁判は終了します(民事訴訟法244条)。
このような法律の仕組みから、裁判に参加しないでいると、勝手に負けが決まってしまうのです。
このような事態を回避するには、訴状が届いたら、あなたの主張を記載した「答弁書」を期限までに裁判所へ提出するとともに、「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」に記載されている期日に裁判所へ出頭する必要があります。
もっとも、敗訴したからといって、その後具体的にどうなるのかまでは知らない方もいらっしゃるかもしれません。そこで、敗訴した場合、その後なにが起こるか、訴状を無視することの危険性をお伝えします。
例えば、今回のZさんのケースですと、Yに対して200万円の債務を負っていることが判決で確定すると、YさんはZさんに対して強制執行をすることができるようになります。
強制執行とは、裁判で勝ったのに、相手がその通りの履行をしてくれない場合に、裁判所の力で強制的に債務を履行させる手続きのことを言います。そして、強制執行がなされると、YさんはZさんの家や自動車の売却、預貯金や給料の差押えなどができるようになり、これにより200万円を強制的に取り立てることができます。
このように、訴状を無視しているとあなたの大切な財産が問答無用で処分されてしまうこともあるため、訴状を無視することは絶対にやめましょう。
(3)このような場合は無視してもいい?
ア 身に覚えのない内容だった
訴状が届いて中身を見てみたが、全く知らない人から見に覚えのない理由で訴えられていたという場合には、訴状を無視してもいいのでしょうか。
答えは、「そのような場合でも訴状を無視してはいけない」、です。仮に、原告が事実無根の請求をしていたとしても、訴状を無視して適切な主張をしないでいると、上記で説明した法律の仕組みにより、裁判所には原告の主張が一方的に認められてしまいます。そして、そのまま原告の請求を認める判決が下されると、存在しないはずの債権を理由に強制執行がされてしまうおそれがあります。これは、架空請求業者が裁判手続きを悪用してお金を奪い取る際に用いられることもある手口です。
イ あなたにも言い分がある場合
中には、訴状を確認してみたところ、請求されている金銭は既に支払ったものだった、というようなケースもあります。このような場合、支払うべきお金は既に支払っているのだから、これを無視しても問題が無いようにも思えます。しかし、やはりこの場合も訴状を無視していると、既に支払った債務であるにもかかわらず、まだ支払いはなされていないものと裁判所には判断されてしまいます。そうなると、再度、同様の支払いをしなければならなくなるおそれがあります。
そのため、裁判の場において、その債務は既に支払ったものである旨しっかりと主張をして、自身の敗訴判決を回避する必要があります。
また、キャンセルしたはずの契約に基づく請求がなされているなど、これ以外にも何か反論できるような事情があるという場合には、上記と同様に裁判の場にて適切に主張をする必要があり、それにより自身の敗訴判決を回避することができます。
ウ 詐欺の可能性がある
裁判所から書面が届いたが身に覚えが無い、郵便配達員から直接手渡しをされずにポストの中に入れられていたなど、本当に裁判所からの書面なのか疑わしい場合があります。実際、裁判所からの書面を装った詐欺がなされる場合もありますので、十分注意してください。
ここで、送られてきた書面が詐欺かどうかを見分ける簡単な方法をお教えします。まず、前述したように、訴状は特別送達という方法により届きます。そのため、郵便配達員からの手渡しでなく、郵便受けに入れられていたような場合には、裁判所を騙った詐欺である可能性が高いです。
また、このことから、裁判所から請求ハガキやQメールといった形式で訴状が届くことはありませんし、ましてやチャットアプリのようなSNSを介して届くなんてこともありません。このような方法で訴状が届いたら、それはまず間違いなく詐欺です。
上記のような裁判所から送られてきたのではない訴状であれば無視しても問題ありません。
とはいえ、自分だけで判断して実は本物の訴状でした、などとなったら大変です。そこで、詐欺かどうかを見分ける確実な方法は、その書面に記載されている裁判所に直接電話をして聞いてみることです。
ただし、その際にはその書面上の電話番号にかけるのではなく、インターネットでその裁判所名を検索し、裁判所のホームページ上に記載されている電話番号にかけるようにしてください。書面上の電話番号にかけると、詐欺グループが裁判所のふりをして電話に出る可能性がありますし、それだけでなくあなたの電話番号が詐欺グループに知られてしまう危険性もあります。
このように詐欺師からの書面であると分かったら、警察に言いつけて、やっつけてもらいましょう。
訴訟告知書
(1)訴訟告知書が届くのはどのようなときか
訴訟告知書とは、簡単に説明すると、「現在、あなたに関係する裁判が裁判所で行われていますよ。」ということをお知らせする書面です。訴状と何が違うのかというと、訴状は、被告(訴えられる人)に対して送られてきます。しかし、訴訟告知書は、もうすでに原告(訴える人)と被告との間で訴訟が始まっているときに、この訴訟に関係のある人に対して送られてきます。
分かりにくいかと思いますので、先程の訴状の際に用いた事例で説明します。
以下で登場人物の情報を簡単におさらいしておきます。
Xさん:Yさんから借金をしている
Yさん:Xさんにお金を貸しており、連帯保証人のZさんを相手に裁判をしている(原告)
Zさん:Xさんの借金の連帯保証人となったために、Yさんから訴えられている(被告)
先程の具体例では、YさんがZさんを相手として訴訟を提起しているので、原告はYさん、被告はZさんです。XさんはYさんから訴えられていないため被告でもないですし、もちろん原告でもありません。訴訟に全くかかわっていません。
こんなとき、Zさんは、訴訟告知という制度を利用して、Xさんに対して訴訟告知書を送ることが考えられるのです。訴訟告知書は、訴状のときと同じように、裁判所に提出して、裁判所が特別送達でXさんに送ることになります(民事訴訟法53条3項、民事訴訟規則22条を参照)。
(2)訴訟告知書を無視した場合
実は、訴訟告知書を無視すること自体により、直接的に何か不利益が生じるということはありません。自分とは直接関係のない、他人間の裁判なのですから当然です。しかし、訴訟告知がなされた場合には、他人間の裁判の結果が後の自分の裁判において不利に影響してくることがあります。今回の事例でいうと、ZのXに対する求償請求が認められやすくなる、という不利益が生じます。
このような事態を回避し、XさんがZさんからの求償請求を拒むためには、YZ間の訴訟に参加し、Zさんに有利となるように訴訟を進め、YさんのZさんに対する請求を棄却させる必要があります。つまり、Xさんは後々生じる可能性のある自己に不利益な裁判(ZのXに対する求償請求)を回避するために、YZ間の訴訟においてZに有利になるよう、協力をしておくのがよいということなのです。
証人尋問の呼出状
(1)証人尋問の呼出状が届くのはどのようなときか
先ほどの事例のうち、ZさんがXさんに対して訴訟告知をするのではなく、証人として発言してもらうことにしたという場合を想定してください。
一般的には、証人は事前に当事者との打ち合わせがあると思いますので、裁判所からの呼出状で自分が証人として呼ばれていることを知ることはないと思います。
しかし、事前の打ち合わせができない証人が申請された場合には、裁判所から呼出状が届きます。
(2)証人尋問の呼出状を無視した場合
呼出状が届いた場合、正当な理由なく尋問期日への出頭を拒絶することは原則としてできません。10万円以下の過料に処せられたり(民事訴訟法192条1項)、勾引されたりする(民事訴訟法194条1項)場合があります。
したがって、Xさんとしては、正当な理由がない限り証人尋問期日に出頭しなければなりません。
放置していても危険ではない書面
上記の訴状や支払督促などの話を聞いて、裁判所から届く郵便物はどれも放っておくと大変なことになってしまうものだと思われたかもしれません。ですが、実は、そういう訳でもありません。そこで今度は、万が一放置してしまっていたとしても、上記の各書面ほど危険な事態は生じない種類の書面を紹介します。
調停申立書
(1)調停申立書が届くのはどのようなときか
そもそも調停とは、相続や離婚などの問題について、裁判所を交えた話し合いによる解決を目指すための手続きのことを言います。そして、調停申立書が届くのは、誰かがあなたを相手方として調停の申立てをした場合です。
これについても、具体例を用いて説明します。
PさんはQさんと結婚しているところ、Qさんに浮気をしていることを知られてしまい、離婚を切り出されました。PさんはQさんと離婚をしたくないので、離婚届の提出を拒んでいると、Qさんは実家に帰ってしまい別居状態になりました。数日後、離婚に応じてくれないことに業を煮やしたQさんは、裁判所に夫婦関係調整調停(いわゆる「離婚調停」というものです。)の申立てをしました。
この申立てがされると、裁判所からPさんのもとに離婚調停を内容とした「調停申立書」という書面が届きます。
調停は裁判とは別の制度であるため、訴状ではなく「調停申立書」が届くことになります。そして、調停申立書の他には、○月○日に裁判所へ来るようにということが記載された「期日通知書」や、あなたの意見を主張するための「答弁書」という書面などが同封されています。
調停の場合には訴状とは異なり、特別送達といった厳格な配達方法は用いられません。そのため、郵便配達員からの手渡しでなく、郵便受けの中に勝手に入れられています。訴状のように手渡しではないため、普段郵便受けをこまめにチェックしないという人は、時間が経ってから気づくということもあり得ます。
(2)調停申立書を無視した場合
調停申立書が届いたにもかかわらず、Pさんがこれを意図的に無視していたり、前述のように郵便受けを確認していなかったために長期間放置してしまっていたりした場合にはどうなってしまうのでしょうか。
訴状を無視した場合には相手の主張がそのまま認められてしまうことから、調停の場合にも大きな不利益を被るように思えます。ですが、調停申立書を無視(期日通知書に書かれている期日に欠席)していても、特段大きな不利益はありません。これは、調停という手続きが双方の合意による解決を目指す手続きであり、裁判のように、裁判所が判断を下すということができないこととなっているからです。
そのため、調停申立書を放置していても、これにより調停が勝手になされてしまい、自己に不利な事態が生じるということはありません。
もっとも、これはその調停手続きにおいては、という話です。その後の手続きなどにおいて、調停申立書を無視していたことが不利に働く場合があります。
(3)調停申立書を無視することによる不利益
Pさんが離婚調停を無視し続けていると、裁判所は調停を不成立とします。調停が不成立となった場合、Qさんは離婚裁判を提起することができます。離婚裁判は、その名の通り“裁判”です。そうなると、先述の通り訴状が届き、さらにこれを無視していれば、裁判所の判断で離婚が認められてしまいます。
そのため、結局は裁判所へ行かなければならないことになります。それだけでなく、離婚裁判における判断においては、あなたが調停の呼び出しを無視し続けた不誠実な人、という事実が考慮されてしまいます。調停を無視し続けたことで裁判官の心証が悪くなれば、裁判であなたに不利な判断がされてしまう可能性があります。
(4)どうしても出席できないとき
調停は、裁判所の営業時間内に行われます。そのため、呼び出しを受けるのは基本的に平日の日中となります。しかも、最初の期日は裁判所と申立人の意見だけで決められてしまうため、相手方の都合なんて全く考慮してもらえません。そのため、仕事をしている方や家事や育児で忙しい方にとっては、いきなり呼び出しを受けても出席するのは困難かと思います。
出席する意思はあるけど、都合がつかず出席できないような場合、どうしたらよいでしょうか。
ア 弁護士に依頼する
どうしても調停に出席ができない時の対処法の一つは、弁護士に依頼することです。弁護士に依頼をすれば、本人から話を伺っておいて、調停の場において本人に代わって話をしてもらうことができます。
もっとも、事前に話を伺っているとしても、より詳しく説明をしたり、自身の希望を述べたりすることができるのは、やはり当事者たる本人です。そのため、調停は原則として本人の出席が必要であり、最初から最後までずっと弁護士のみの出席で済ませることはできません。あくまでも、裁判所からの急な呼び出しに対する、欠席回避のための一時的な対処法になります。
とはいえ、一度弁護士を付けてしまえば、その後も調停が終了するまでの間、様々なアドバイスを貰いながら手続きを進められます。知識が無いゆえに不利な内容で調停が成立してしまいたくないという方は、弁護士に依頼することをお勧めします。
イ 裁判所に欠席の連絡をする
裁判所にその日は出席できない旨の連絡をする、というのも一つの手です。事前に連絡をしておくことで、調停委員の心証が悪くなることを避けることができます。そして、その際には、「仕事でやむを得ず行けない」など、出席する意思はあるということを示しておくことが重要です。
今回は、裁判所から届く書面について説明しました。基本的にはどの書面も、無視すると不利益になる場合が多いと思われます。
もし裁判所から何か書面が届いたら弁護士へ相談することをお勧めします。